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「自分にはどんなノロイがかかっていますか?」と問いかける赤木和重准教授=西宮市西福町、若竹生活文化会館
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「自分にはどんなノロイがかかっていますか?」と問いかける赤木和重准教授=西宮市西福町、若竹生活文化会館

 なぜ、私たちは子どもたちに対し、教育現場や家庭で「ちゃんと」させたくなるのだろう。「ちゃんとできるように」を「子育てのノロイ」と表現し、ほぐすためにはどうしたらいいのか-をテーマにした神戸大大学院人間発達環境学研究科、赤木和重准教授の講演会(西宮の教育を考える市民の会主催)が兵庫県西宮市内で開かれた。「ノロイ」は、どう解くのか?(鈴木久仁子)

 赤木さんは駆け出しの頃に衝撃を受けた研修を紹介した。「左右で違う靴をはきたがる自閉症の子に悩む保護者」の相談になんと答えたらいいか。講師の答えは「おしゃれでえーやん」だった。教科書通りに「自閉症ならきっと言葉より視覚効果の高い写真の方が分かりやすいから…」などと考えていたので、驚き、納得できなかったが、なぜかその答えが気になった。

 今はこう思う。その時に「ちゃんと」できなくてもいい。「(左右違っても)機嫌良くはいた」という感じを親子で共有できれば、そこから、新たな窓が開いていく。朝食は忙しかったら自転車に乗りながら食べてもいいし、ビスケットだけでもいい。その時「ちゃんと」できなくてもいい。大切なのは親が上機嫌なこと。そこから得られる「安心」「楽しさ」「安楽さ」がある。「食べなくてもええやん」「違う靴でええやん」

 教師が上機嫌でいることは、学校でも教育効果がかなり違う。偏食でも先生に「食べたくない」と言えると、自分の気持ちが表現できて、自分の気持ちが分かるようになる。先生も「食べなさい」ではなく「何だったら食べられるかな?」と探求していく。「今、ちゃんとしないほうが、あとでちゃんとする」のが、たどり着いた「発達の極意」-。

 教育現場で「できるようにさせたい」というのは善意。でもそれが、できないことから出発していると、どんどん追い詰める。教育は「考える楽しさを実感してもらったらいい」。それが実感できていれば、いずれ自ら「知りたいことに向かっていく」。

 私たちは子どもたちのために、できた方が「いい学校、いい勤め先、いい生活」って説明があるかもしれないが、まず一番は子どもの気持ち。ノロイは社会からやってくる。

 「たとえば未来は不透明で、今のままではやっていけないから、生き残る能力を身につけなければ…などという声に、不安に駆られる。でも敵を間違えないように。できないと自分を責めるのではなく、社会のあり方を見つめ、変えていく方向に」

 ノロイは気づかないうちにかかっている。「家族や同僚と話して気づき、ノロイをほどくことが大切」だという。

 講演後、会場からは不登校の増加や先生の疲労などの悩みが寄せられ、赤木さんは「教室に同質性を求める力が強くなっているのでは」と感想を話した。

【あかぎ・かずしげ】京都大卒業。2010年から神戸大准教授。発達心理学、中でも「障害のある子どもの発達とインクルーシブ教育」が専門。主な著書に「アメリカの教室に入ってみた 貧困地区の公立学校から超インクルーシブ教育まで」(ひとなる書房)、「子育てのノロイをほぐしましょう 発達障害の子どもに学ぶ」(日本評論社)など。

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