なぜ、6歳の男の子は亡くなったのか。なぜ、遺体が人けのない草むらに放置されたのか。生まれてきた喜びを感じられていたのか。祖母への監禁、傷害容疑で母親らきょうだい4人が逮捕された事件との関係は-。神戸市西区で遺体が発見されて29日で1週間。捜査関係者や周辺住民らへの取材を基に、現時点で判明している経緯を振り返る。
■草むらを指した母
「あなたの息子さん、どこにいるんですか」
6月22日、木曜日の昼下がり、神戸・三宮。多くの人でにぎわう繁華街の一角に停車した捜査車両で、兵庫県警の捜査員が一人の男児の行方をただしていた。
穂坂修ちゃん。
「修」と書いて「なお」と読む。3週間ほど前に6歳になったばかりだった。神戸市西区の集合住宅で、30代の母と、そのきょうだいに当たる叔父と双子の叔母2人、50代の祖母の計6人で生活していた。祖母から見れば、子ども4人と孫の修ちゃんとの6人暮らし、となる。
捜査車両で追及を受けているのは、修ちゃんの母。三宮センター街の建物内で捜査員に呼び止められた。一緒にいた叔父と叔母2人は神戸西署へ任意同行を求められ、既に向かっている。
「修のところに案内できます」
母が、捜査員に応じた。捜査車両が、母の誘導で西区へ走る。住宅街を抜け、田園地帯に入ると一気に視界が開けた。
たどり着いたのは、6人の自宅から約1キロ離れたため池のほとり。周辺には田畑が広がり、大小さまざまなビニールハウスが点在している。
草むらの一角を、母が指した。銀色のスーツケースが転がっている。タグは付いていない。捜査員があらためる。
修ちゃんが入っていた。
シャツにズボン、靴下と、着衣は一通りそろっている。靴は履いていない。時刻は午後6時7分。捜査員は、一見して命が絶えていると分かった。
■「相当数」のあざ
修ちゃんの遺体が見つかった翌日の23日深夜、神戸市中央区の兵庫県警本部10階。捜査を主導する刑事部捜査1課の部屋に、約20人の記者が集まっていた。
報道対応を担当する幹部が、朝から続いていた司法解剖の結果を説明していく。「死因については、外傷性ショック。今の時点では『疑い』です。死亡の時期は、6月19日ごろ。これが、死因と死亡の推定時期となります」
続いて遺体の状態に触れ、「背中を中心に、相当数の打撲による皮下出血が認められます」と述べた。ここで、記者から質問が出る。「相当数」とはどのくらいの数なのか-。
幹部が、言葉を選ぶように答える。「具体的に言えるものではありません。背中を中心に、相当数ということで」
あいまいな表現だが、実際にそうとしか答えられなかったのだろう。修ちゃんの体に、目立った刺し傷や骨折などはなかった。
ただ、首から腰部にかけては違った。皮下出血によって、背中一面が青黒い。あざ一つ一つの形が分からないくらい、隙間なく広がっている。
打撲の痕であることは間違いないが、殴られたのか、蹴られたのか、何らかの道具が使われたのか、加えられた暴行が数十回なのか数百回なのか、全く見当が付かない状態だったという。
遺体の全身を目の当たりにした捜査員は、憤りを隠さない。「ほんまにひどい。むごい。おれは、被疑者を許さない。絶対に、許さない」
来春には、笑顔で小学校の校門をくぐっていたはずの修ちゃん。遺体が見つかったきっかけは、20日の深夜にさかのぼる。
■修ちゃんがいない
神戸市垂水区、街灯が薄暗く照らす歩道で、車いすに乗った女性が両脚を投げ出していた。膝ほどの丈のスカート、半袖、つば広の帽子。周辺には、女性の所持品とみられるペットボトルやノートが散らばっている。
通りがかった男性(66)が「大丈夫ですか。こんな遅い時間に1人だと危ないですよ」と話しかけた。「家、近いから大丈夫」という弱々しい返事。女性の顔からは生気が感じられず、茶色いあざもあった。車いすから立ち上がり、前に出ようとしたが、2、3歩進んだところで膝から崩れ落ちた。
この女性が、修ちゃんの祖母だった。
西区の自宅から、直線距離で約7キロ。現場のすぐ近くには、祖母が20年ほど前まで、子どもたちと暮らしていた市営住宅があった。
「車いすの女性が1人でいるので、保護してもらえませんか」。午後11時26分、男性が110番。駆け付けた県警垂水署員が祖母を引き取る。直後の事情聴取は、約3時間に及んだ。
「子どもたちに鉄パイプのような物で背中を殴られた」「自宅の押し入れに何度も監禁された」「子どもたちがいないときに逃げ出してきた」
祖母は家族構成について6人暮らしと明かし、修ちゃんの名前も挙げた。司法解剖の結果によれば、この時点で修ちゃんが亡くなっていた可能性が高い。ある捜査員は、断続的な取り調べの中で祖母が「子どもたちが、孫の遺体をスーツケースに入れる話をしていた」という趣旨の説明をした、と明かす。
一方で、突然「警視総監が」と口走るなど、祖母の発言は脈絡がないところがあった。県警は日付けが変わった21日未明、修ちゃんの安否を気にかけつつ、祖母に対する監禁、傷害容疑で捜査を始め、6人の自宅に捜査員を向かわせた。
集合住宅で、2階建ての間取りのメゾネットタイプ。庭には、粘着テープが貼られた冷蔵庫や空の植木鉢が散乱していた。玄関は施錠され、人がいる様子はうかがえない。
捜査員が、捜索令状を取って中に入る。やはり不在。周辺の防犯カメラを調べて回り、自宅南の幹線道路付近で、母と叔父、叔母2人のきょうだい4人が歩く映像を確認できた。
だが、そこに修ちゃんが映っていない。6歳の男の子が自宅にも家族とも一緒におらず、「遺体」の情報もある-。捜査員の緊張が、さらに高まった。
この日、4人は神戸を離れ、京都のネットカフェで1泊したことが会員カードの利用履歴から判明している。翌22日には再び神戸に戻ってきており、県警は携帯電話を解析するなどして、午後3時前に三宮で確保した。母を他の3人と引き離して聴取したのは「修ちゃんの居場所を必ず知っているはず」との理由からだった。
■焦点は6月19日
22日午後5時すぎ、県警神戸西署。県警は、先行して取り調べを始めた3人を、祖母に対する監禁と傷害の疑いで逮捕する。修ちゃんのもとへ捜査員を案内していた母も、その約4時間後に同じ容疑で逮捕した。
祖母は、1階リビングの一角、階段下にある押し入れに鍵を外付けされ、数十回にわたって断続的に閉じ込められた疑いがある。住まいの間取り図によれば、広さは1平方メートル程度。体を曲げないと、横たわることもできない。
監禁が始まった時期について、祖母は「今年の3月ごろから」と捜査員に証言した。複数の捜査関係者の話を総合すると、昨年末ごろに長田区から転居してきた叔父が主導した可能性があるという。
修ちゃんにも、異変が起きていた。
4月下旬、保育園で肩と尻にあざが見つかり、翌日を最後に通わなくなった。西区の職員による家庭訪問に応じた母と祖母は「心当たりがない」と口をそろえた。
この頃、「助けて、中に入れない」とベランダで叫ぶ修ちゃんを近くの住民が目撃している。その姿は5月半ば以降、ほとんど見られなくなった。
祖母への虐待容疑に加え、修ちゃんへの暴行や遺体遺棄の疑いも視野に、県警が綿密に経緯を調べている時期がある。
祖母が、鉄パイプのような物で殴られたという6月19日ごろだ。司法解剖の結果に基づく修ちゃんの死亡推定時期と重なる。一家の自宅付近や、遺棄現場へと続く田園地帯でスーツケースを引く人物の姿が防犯カメラに捉えられているのも、19日前後とされる。
だが、県警の取り調べに対するきょうだい4人の説明には食い違いがあり、それぞれに「相手の話に迎合してしまう性格」(捜査関係者)が認められるという。捜査幹部は「最近の生活実態から4人の生い立ちまで、長期間の流れを解明する必要がある」と強調する。
■花束と菓子
修ちゃんの遺体が見つかった直後の週末、西区の自宅はブルーシートが張られ、現場検証が続いていた。鑑識の捜査員がひっきりなしに出入りするが、中の様子はうかがい知れない。
修ちゃんの母と知り合いだったという女性が訪ねてきた。時々、声を震わせながら、思い出をたどっていく。「つらいことがあったなら、ラインしてほしかった。スーパーにも買い物にも銭湯にも一緒に行っていたのに…。私、いっぱい話を聞いてあげてきたよね?」
母は、編み物が得意で、修ちゃんにマフラーや帽子を作ってあげていた。初めての子育てに悩みながら自炊を頑張り、「引っ越して子どもと2人で暮らしたい」とも話していたという。
昨夏まで、女性は修ちゃんにも何度も会っていた。「目のくりっとした、ふっくらした子。本当に、よく食べる子だった。いつも走り回っていて、活発だった。一緒にクレーンゲームをしたね。アンパンマンが大好きで、カラオケでも歌っていたね」
修ちゃんの遺体が見つかったため池の周辺は、静まり返っていた。風が吹き抜け、時折、ウグイスの鳴き声が響く。
通りがかった男性(70)が、周囲を見渡した。「この辺りを歩く人は、私のようなウオーキングか、犬の散歩。あとは、農業用の軽トラックが走るくらいだ」
池を囲うガードレールのたもとには、小さな花束と、クッキーの「カントリーマアム」が2袋。まだ真新しい。修ちゃんに手向けられたものだろうか。生い茂る雑草に覆われるように、ひっそりと置かれていた。
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