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 加速する少子高齢化で、地域交通のあり方が問われている。JR西日本は昨年、利用者が少ないローカル線の赤字を公表。「鉄道は地域に不可欠」だとして利用増へあれこれ知恵を絞る兵庫県や沿線市町に対し、JR西は路線維持のみを目的とした議論に疑問を呈する。両者の温度差が浮き彫りとなる中、地元の声を吸い上げる議会の役割が重くなっている。(金 慶順、長谷部崇)

 3月4日土曜の朝、同県香美町のJR山陰線香住駅に、ほぼ満員の列車が止まった。普段は休日でもガラガラ。降車客の列に、同町職員は「こんなに人が乗っている電車は初めて」と目を丸くした。

 乗客の目当ては、香住駅前で開かれたキッチンカー6台による催し「乗っ食べ! フェスタ」。JRでの来場を呼びかけ、改札口で鉄道グッズを配った。子どもたちが描いた列車のイラストをスキャナーで読み取り、画面上で立体化して走らせるコーナーもあり、地元や近隣市町から約3千人が訪れたという。

 県内で赤字収支が公表されたのは、山陰、播但、姫新、加古川線の4路線6区間。中でも香住駅がある山陰線城崎温泉-浜坂間は、2019~21年度平均の赤字額が10億7千万円と県内最大で、営業費用に対する収入の割合を示す収支率は9・2%だった。

 県は昨年6月、「JRローカル線維持・利用促進検討協議会」を立ち上げた。4路線のワーキングチーム(WT)をつくり、沿線市町やJR西と意見を交わしている。「乗っ食べ! フェスタ」は、山陰線WTが企画した。

 香住駅前で靴店を営む西垣隆さん(54)は「城崎温泉駅で観光客が降りるのは『まちを歩きたい』と思わせる魅力があるから」とみる。香住駅前は店も減り、人通りはまばら。「イベントを一時的なにぎやかしで終わらせず、継続的な取り組みにつなげてほしい」

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 県は本年度当初予算に、ローカル線利用促進経費として約3100万円を計上した。駅舎や駅周辺の空き店舗を使うにぎわいづくりの補助金80万円、自転車を載せるサイクルトレインやキャッシュレス決済導入に向けた調査検討費用500万円などで、イベントやキャンペーンの費用なども盛り込む。

 関係市町も、定期券購入費用の助成、複数人で乗車する場合の運賃補助などを始めた。

 しかし、6区間の赤字は19~21年度平均で2億~10億円台に上り、収支率は悪化している。JR西の国弘正治兵庫支社長は、今年2月の協議会で「ノスタルジーではなく現実直視で、現状維持ではなく未来志向で議論してほしい」と要望。別の交通機関への転換などを含む幅広い議論を求めた。

 沿線では鉄道振興策への期待が高まる半面、「地元の努力だけでは限界がある」との見方も広がる。

 県総合政策課の担当者は「一つの施策で利用者が劇的に増えることはない。継続的イベントや運賃補助、キャッシュレス導入など、利用促進に向けて丁寧にやっていく」とする。また「鉄道網の在り方を議論するには国の関与が不可欠」とも指摘する。

 県議会は今年2月、ローカル線維持を目指す議員連盟を立ち上げた。国に赤字路線への支援制度創設などを求める方針を確認しており、改選後の動きが注目される。

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