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公文書管理法と事件記録との関係性を語る三宅弘弁護士=東京都
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公文書管理法と事件記録との関係性を語る三宅弘弁護士=東京都
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 行政の長である内閣総理大臣と、司法の長である最高裁長官の申し合わせ文書がある。歴史資料として重要な公文書と保存に関する内容で、2009年8月に取り交わされた。そこには「歴史資料として重要な判決書等の裁判文書」は、保存に必要な措置として「国立公文書館に移管する」と明記された。その一方で、重大少年事件記録の多くは廃棄され続けていた。内閣府の公文書管理委員会などで長く委員を務めた三宅弘弁護士(69)は、申し合わせの効力が発揮されなかったと語る。

■根本的問題  

 「残念ながら、裁判所に、保存の仕組みを積極的に運用する認識がなかった」。三宅さんはそう見る。昨年11月、永久保存されていた民事裁判の記録さえ廃棄された事実が明らかになり、強い衝撃を受けた。「最高裁が主導し、現在残る重要な記録を早急に保存すべきだ」と提案する。

 三宅さんが驚き、憤るのは理由がある。

 公文書を管理するルールなどを定める公文書管理法は、行政文書のみを対象とし、司法権の独立の面から司法文書は除外する見方が支配的だ。しかし三宅さんは、司法文書も同法の対象に入ると指摘する。委員を務めた国立公文書館の有識者会議でも「司法文書の保存は、歴史を後世に残す一丁目一番地」と口酸っぱく言ってきた。

 その議論を経て実現したのが、冒頭の内閣総理大臣と最高裁長官の申し合わせのはずだった。

■漏れた理由 

 

 三宅さんは、少年事件を含めて全ての重要な裁判記録は、国立公文書館に移管されると考えていた。しかし、申し合わせはもう一つあった。実務レベルで、内閣府大臣官房長と最高裁秘書課長、総務局長が作成した文書だ。そこでは、移管すべき裁判文書が「民事事件」に限って記された。少年事件は示されていない。「ああ、そこで漏れているのか」と気付いた。

 三宅さんは、永久保存した少年事件記録は、国立公文書館への移管を求める。最高裁は現在、事件記録の永久保存の在り方を検証しているが、「なぜ実務レベルで少年事件記録を移管対象に入れなかったのか。それを詰めるのが重要なポイントではないか」と話す。

■保存と公開 

 

 これまで少年事件では、記録の永久保存の議論は低調だった。三宅さんは、加害少年の立ち直りを目指す観点から、「過去を消したいとする考えも影響していると思う」と言う。

 少年法は少年審判を非公開と定め、記録はすぐさまは見られない。だが、当時14歳の少年が逮捕された神戸連続児童殺傷事件のように、重大事件の記録は、犯罪心理学や犯罪社会学の研究に役立ち、再発防止の法政策にもつながるとみる。

 三宅さんも、裁判記録は「国民共有の知的資源」と説く。「保存と利用は別の話。今は利用できなくても、やがて可能になる時は来る。最高裁は、少年事件記録も国立公文書館に移管する道筋をつくらなければならない」(霍見真一郎)

=おわり=

【みやけ・ひろし】1953年、福井県生まれ。東京大卒、京都大博士(法学)。国立公文書館有識者会議委員や、内閣府の公文書管理委員会委員長代理などを歴任。2004~17年、独協大法科大学院特任教授。15~16年に日弁連副会長。

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