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2019年に重要な民事裁判記録の大量廃棄を相次いで報じた元朝日新聞記者の奥山俊宏さん(右)と、元共同通信記者の澤康臣さん=東京都内
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2019年に重要な民事裁判記録の大量廃棄を相次いで報じた元朝日新聞記者の奥山俊宏さん(右)と、元共同通信記者の澤康臣さん=東京都内
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 なぜ、重要な事件記録の廃棄は繰り返されるのか。事件記録の保存規定は、「成人か少年か」「刑事か民事か」「判決か関連文書か」など、文書の種類によってそれぞれ異なる。成人の刑事裁判であれば、「刑事確定訴訟記録法」という法律で保存期間が定められ、各検察庁が管理している。一方で、裁判所が保存する民事裁判記録や少年審判記録の保存は法律に基づかず、「事件記録等保存規程」という最高裁の内規にしか定めがないのが実情だ。

■「要領」で微修正

 元朝日新聞記者の奥山俊宏・上智大教授(56)と、元共同通信記者の澤康臣・専修大教授(56)によって民事裁判記録廃棄が報じられた際には、最高裁はその内規さえ見直さず、「運用要領」の策定という“微修正”にとどめた。2020年、運用要領は東京地裁のプロジェクトチームによって作られた。特別保存する記録は、「主要日刊紙2紙以上に終局に関する記事が掲載」などと具体的に示されると、最高裁は、それを参考に各裁判所に要領を設けるよう促した。

 そして2年後の昨年10月、各地で重大少年事件の記録廃棄が発覚したが、裁判所側は廃棄時にこの運用要領が未策定だったと強調。最高裁は「当時は具体的な選定手順がなかった」とした。確かに、廃棄が明らかになった少年事件記録の多くは、運用要領ができる前に捨てられていた。

■元々「具体的」

 これに対し、奥山さんは保存の定めを「あいまいではない。運用要領策定前から、規定の運用を定めた最高裁通達は、とても具体的な基準だ」と指摘する。

 内規、つまり事件記録等保存規程は、一般的な少年事件記録の保存期間を「26歳に達するまで」と定める一方で、「記録又は事件書類で史料又は参考資料となるべきものは、保存期間満了の後も保存しなければならない」とも明記。さらに、最高裁通達はその対象となる例として「世相を反映した事件で史料的価値の高いもの」「全国的に社会の耳目を集めた事件」などを挙げる。この内規や通達は、連続児童殺傷事件の記録が廃棄されたという2011年当時、既に存在した。

 奥山さんは「それでも保存期限が来た記録を機械的に捨てていたのは、(記録を保存する)趣旨とか精神がないがしろにされていたということ。今回の見直しでは、バックボーン(背骨)を入れ直す必要がある」と話す。

■リスクの意識

 他方、澤さんは民事裁判記録で、特別保存とされなかったのに保存されていた記録の存在に着目する。「さすがに『これを捨てちゃまずいのでは』と思ったのだろう。連続児童殺傷事件の記録では、そういう声は出てこなかったのか」

 その背景には、記録を残すことが、過去の手続きのミスや不適切な対応などをチェックされるリスク要因になりかねないという意識があるとも指摘。「保存の在り方を司法関係者だけで話し合えば、情報を非公開にして早期廃棄-という方向になるだろう」とする。

 奥山さんは、司法文書も「公文書」の一つとして、公文書管理法の理念を反映させる必要があると説く。

 同法は冒頭で公文書の意義をうたう。「民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と。奥山さんは提言する。「この規定を事件記録にも適用されるよう法改正するか、事件記録等保存規程の冒頭にこうした理念規定を置くかを考えるべきだろう」

     ◇

 最高裁は現在、有識者委員会を置いて各地で重要な事件記録が廃棄された経緯を調査し、4月の報告書作成に向けて議論している。適切な事件記録の保存に向け、最高裁が考えるべき点は何なのか。専門家たちに聞いた。(霍見真一郎)

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