「兵庫県こころのケアセンター」(神戸市中央区)が開設されて半年後の2004年10月、台風23号が兵庫などに大きな被害をもたらした。日を置かず、新潟県中越地震が発生。翌年4月には、尼崎JR脱線事故が起きた。
大きな災害や事故であるほど、心のケアを必要とする人は多くなる。初代センター長だった中井久夫さんのもと、スタッフたちは国内外を奔走、センターの役割は注目された。
一方、阪神・淡路大震災で始まった精神科医らによる心のケア活動は、11年の東日本大震災でも力を発揮する。多くの医師が東北に向かった。
その一人が、「兵庫県立ひょうごこころの医療センター」(神戸市北区)院長の田中究(きわむ)さん(66)。かつて医師としての第一歩を神戸大学医学部付属病院(神戸市中央区楠町)で踏み出した時、教授に中井さんがいた。
「頭のてっぺんからつま先まで病気の人はいない、患者さんの健康な部分をちゃんと見なさいと教わった」。そう振り返る田中さんが大事にしている中井さんの一文がある。
「医師が治せる患者は少ない。しかし看護できない患者はいない。息を引き取るまで、看護だけはできるのだ」-。つまり、ひとりぼっちにさせない。
医師が治せる患者は少ない。しかし看護できない患者はいない「看護のための精神医学」(医学書院)
東日本大震災の発生からおよそ1週間後。田中さんは仙台市の避難所に入った。
昼間、床にひとり、正座をしている40代くらいの男性が目にとまった。「いかがですか?」。男性は答えた。「うちは良かったんです。うちは見つかりましたから…」
周囲には津波に流されたまま、行方の分からない人が多かった。男性は妻と娘を亡くしていたが、遺体が見つかっただけ良かったと自分に言い聞かせているようだった。
田中さんは、男性の向かいに座った。互いに言葉はなく、ただじっと。
「おそらく中井先生もそうしただろうな、って」
別れ際、手を握った。男性の手は震えていた。
同じ頃。インターネット上で無料公開された文章がある。中井さんが阪神・淡路からの50日を記録した「災害がほんとうに襲った時」だ。
電子化による公開を提案したのは、取材を通して中井さんと親交があったノンフィクションライター、最相葉月さん(59)=神戸市出身。3月11日、東京都内の最相さんの自宅も大きく揺れた。書棚から床に落ちた本の中に、中井さんの著書があった。
改めて手に取り、「かけがえのない記録」だと感じた。「災害の種類や時代を超えた普遍的なメッセージがある」
阪神・淡路から28年。東日本から12年。中井さんはもういない。でも、と最相さんは言う。「今も語りかけられている気がする」。たくさんの本が、言葉が、私たちのそばにある。
この社会は誰かの孤独に寄り添えているだろうか。いま一度、耳を澄ます。中井さんが教えてくれたことを。
【なかい・ひさお】1934年奈良県生まれ。甲南中・高、京都大卒。精神科医。神戸大名誉教授、「兵庫県こころのケアセンター」初代センター長。翻訳家、文筆家としても活躍し、2022年8月、88歳で死去。
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