「最初の一撃は神の振ったサイコロであった」
中井久夫さんが阪神・淡路大震災を記録した文章「災害がほんとうに襲った時」(みすず書房)は、この一文で始まる。
1995年1月17日午前5時46分。神戸市垂水区の自宅で眠っていた。
「強制的にトランポリンをさせられている感じであった。家人とともになすがままにゆられている他はなかった。何が起こったのか。何も言葉を発しなかったつもりであったが、家人によると『ワーッ』と叫んでいたそうである」
自宅は震源地である明石海峡を臨む場所にあったが、被害は少なかった。後に、中井さんが「申し訳ない」と罪悪感を抱くほどに。
あのとき、神戸大学医学部付属病院(神戸市中央区楠町)は、救急車が到着するも「到着時死亡」の連続だった。遺体は霊安室だけでは足りず、会議室にも運ばれた。
中井さんは病院へ向かおうとした。道は大渋滞。「数時間、連絡不能になることは最悪」と部下に助言され、最初の2日は自宅にとどまった。ひっきりなしに鳴る電話に対応し、関係者の安否確認に当たった。
19日から出勤。病院には映画「心の傷を癒すということ」(2021年公開)のモデルで精神科医の安克昌さん(故人)らがいた。みな被災者のそばに寄り添おうとしていた。
「私は現場のスタッフを信頼していた。最大の仕事は、彼らの仕事を包括的に承認することだった」と中井さん。「自分は黒子になる」と宣言し、電話番や渋滞を避けやすいルートマップづくりを請け負う。
一時は神戸を精神科医で飽和させるぐらいにしたいと思いました 「中井久夫集7 災害と日本人」(みすず書房)
中井さんは思っていた。
「神戸を精神科医で飽和させるぐらいにしたい」「水道の栓をひねったら精神科医が出る、というのに近いものに持っていったら何とかなるだろう」
震災9日後、かねてつながりがあった九州大にこんな電話をかけている。「神戸の中井ですが! 大変だ! とにかく医者が足りない! 精神科医をすぐに発進させてくれっ」
全国からボランティアの精神科医が神戸に集まってきた。
「兵庫県こころのケアセンター」(神戸市中央区)の現センター長、加藤寛さん(64)もその一人。勤務していた東京の病院から駆けつけた。
加藤さんは、中井さんの言葉を記憶している。「支援者は存在することに意味がある。そばにいて、必要なことが見えた時、ケアを提供するのが大事だ」
学校避難所を訪問したボランティア医師たち。診察室で患者と向き合うのとはまるで勝手が違う。試行錯誤の毎日で、加藤さんは目を開かれたという。「現場に行かないと何も分からない。現場に真実があった」
被災者の様子をメモした医師らの日記がある。
「朝から飲酒。酩酊状態。急性アルコール中毒」「1人暮らし、うつ状態」「不眠、表情は仮面様」-。
それが「現場」だった。
【なかい・ひさお】1934年奈良県生まれ。甲南中・高、京都大卒。精神科医。神戸大名誉教授、「兵庫県こころのケアセンター」初代センター長。翻訳家、文筆家としても活躍し、2022年8月、88歳で死去。
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