精神科医の中井久夫さんは白衣を着なかった。医師というより、人として患者に向き合おうとした。
錯乱している患者の脈を取り、聴診器を当て、何度もささやいた。
「きみは、いまとてもそう思えないだろうけれども、ほんとうは大丈夫なんだよ」
17年勤務した神戸大学医学部付属病院(神戸市中央区楠町)の外来では、患者の語りに耳を傾け、本人と家族の「年表」を手作りした。これまでの人生が今の症状にどうつながっているのか、思いを巡らせた。
患者が黙り込んだ時は、カルテの記録もその分だけ空白。沈黙の長さにも、きっと意味があると思ったから。
大学教授の肩書に縛られず、患者の自宅まで往診に出かけた。生活の場を見てこそ、相手のことを理解できると考えた。
回復の道で患者を一人孤独に歩かせてはいけません 「統合失調症は癒える」(ラグーナ出版)
そんな仕事ぶりを助手として間近に見てきた兵庫教育大大学院教授の岩井圭司さん(61)は言う。「異例ずくめで、パッションの人だった」と。
中井さんが神戸大に着任したのは、今から40年ほど前。「患者の言うことは当てにならないと、平気で言う教授がいた」(岩井さん)時代に、中井さんは若い医師に伝えていたという。
「パイプいすを患者さんのベッドサイドに持っていって、20~30分座っていなさい」「患者さんが入院した初日には、一晩一緒に過ごしなさい」
自ら神戸市内にある自宅の電話番号を患者に伝えることもあった中井さんは、こう書いている。
「治療者は患者と山頂で出会い、どこに次の一歩を踏み出せばよいかをともに探りながら、安全に麓まで寄り添う役割だと思います。回復の道で患者を一人孤独に歩かせてはいけません」
中井さんの歩みをたどれば、決して平たんな一本道ではない。京都大法学部に入ったものの、結核で休学し、医学部へ。その後、ウイルス学の研究者から32歳で精神科医に転向した。
患者が胸に持っている繊細さ、優しさ、敏感さ。それらを「こころのうぶ毛」と呼び、傷つけないようにしながら、回復まで伴走していくスタイルは、東京の勤務医だった頃から次第に練り上げられ、一つの考えに行き着く。
「治療とは、症状とよばれる霧の奥にあるその人自身と向き合い、人としての尊厳を再建する作業である」
1995年1月。中井さんが神戸に暮らし、15年ほどがたっていた。振り替え休日の16日は、中井さんの61歳の誕生日でもあった。
長年取り組んできたフランス人詩集の全訳作業を終え、インフルエンザで伏せっていた体も回復し、自宅でくつろいでいた夜-。
「さて明日から働けるだろうか」。かすかな不安を胸に抱きつつ、職場の仲間と久しぶりに会えるのを楽しみにしていた。
【なかい・ひさお】1934年奈良県生まれ。甲南中・高、京都大卒。精神科医。神戸大名誉教授、「兵庫県こころのケアセンター」初代センター長。翻訳家、文筆家としても活躍し、2022年8月、88歳で死去。
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