• 印刷
神戸市内の小学校で行われた避難訓練。余震も想定し、子どもたちは頭を手で押さえた=2022年11月(撮影・中西幸大)
拡大
神戸市内の小学校で行われた避難訓練。余震も想定し、子どもたちは頭を手で押さえた=2022年11月(撮影・中西幸大)

 突然、緊急地震速報の報知音が小学校に響いた。

 ♪チャーラーン、チャーラーン、チャーラーン…

 休み時間。1階で遊んでいた児童数人が、階段を駆け上って2階の教室に戻る。ざわつく周りの様子を見て、一人の女子児童が大声で叫んだ。

 「お・は・し・も!」

 この言葉に反応し、別の児童も声をそろえて繰り返す。「おはしも!」「おはしも!」…。連呼しながら、教員が来るのを待つだけの時間が過ぎていった。

 これは、山梨県内の小学校で実際に行われた抜き打ち地震避難訓練の様子だ。山梨大の秦康範准教授(50)=災害情報=がインターネットで公開した。

 「お・は・し・も」は、「押さない・走らない・しゃべらない・戻らない」の頭文字を取った合言葉。市街地を大火が襲った1995年の阪神・淡路大震災以後、兵庫を含む全国の小学校や保育施設で広まり、災害訓練で使われるようになった。

 「出口の限られた地下空間などでの火災には有効だが…」と秦さん。「むしろ津波が来る場合は走って避難し、『逃げろ』と叫ぶべきだ。学校で教わった『お・は・し・も』が、命取りになる恐れもある」

■研究者、形骸化に警鐘

 課題は合言葉だけではない。校内放送とともに教室の机の下に身を隠し、廊下に整列、静かに校庭に移動する。私語なく短時間で集まれたかどうかをチェックする形の避難訓練が、長らく多くの学校で続いていることに警鐘を鳴らす研究者もいる。

 「余震が来ることをまるで想定していない。大きな地震では、たとえ本震より小さくても余震は必ず起こる。避難の途中に来れば、階段で群衆雪崩が起きる」

 慶応義塾大の大木聖子准教授(44)=地震学=は指摘する。

 地震の際に教員は放送室にたどり着けるのか。放送機器は使えるのか。2011年の東日本大震災では、停電時の非常電源が機能しなかった学校もあったという。「訓練に都合が悪いから、余震や停電を取り入れていないだけ。本当に大地震が来れば、子どもたちはパニックに陥る」

 大木さんは、普段の教室の写真を使い、どこに危険があるかを考える「写真授業」と、さまざまな場面で緊急地震速報の報知音を鳴らし、身を守る行動を覚える「地震ショート訓練」を提唱。旧態依然とした訓練からの脱却を呼びかける。

■「改革」求める研究者の原点

 訓練の「改革」を求める2人の研究者の原点は、阪神・淡路大震災にある。

 兵庫県尼崎市出身の秦さんは大学4年生のとき、同市の自宅で激震に遭い、倒れてきたタンスの下敷きになった。奇跡的にけがはなかったが、この経験が防災研究を志すきっかけになった。

 大木さんは東京の高校1年生。突然、理不尽にやってくる死を前に「あの日、神戸で泣いていた子は自分だったかもしれない」。何ができるのかを突き詰め、地震学者を目指した。

 南海トラフ巨大地震が迫り来る。指示を待つのではなく、子どもが自ら命を守る行動を取る。そんな力を育むことが重要だと、2人は力を込める。それが防災教育だと。

 大木さんは言う。

 「地震は防げなくても、命は救える。訓練をやったふりを、やめませんか」

     ■

 阪神・淡路大震災の発生から28年。学校でも震災を体験していない教員が増え、次世代への記憶の継承が難しくなる中、防災教育の課題が浮かぶ。命を守る取り組みの今と未来を考える。

【特集ページ】阪神・淡路大震災

震災28年U28震災後世代防災教育の現在地防災尼崎話題
もっと見る
 

天気(9月7日)

  • 34℃
  • 27℃
  • 20%

  • 36℃
  • 24℃
  • 40%

  • 35℃
  • 26℃
  • 20%

  • 35℃
  • 25℃
  • 30%

お知らせ