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自身の経験とこれからについて語った大学生の原田伊織さん=尼崎市若王寺2、尼崎市立ユース交流センター
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自身の経験とこれからについて語った大学生の原田伊織さん=尼崎市若王寺2、尼崎市立ユース交流センター
「人生を変えてくれたキーパーソン」である今井直人さん(左)と笑顔で話す原田伊織さん=尼崎市若王寺2、尼崎市立ユース交流センター
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「人生を変えてくれたキーパーソン」である今井直人さん(左)と笑顔で話す原田伊織さん=尼崎市若王寺2、尼崎市立ユース交流センター
「苦しんでいる同世代の力になりたい」と語る大学生の原田伊織さん=尼崎市若王寺2、尼崎市立ユース交流センター
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「苦しんでいる同世代の力になりたい」と語る大学生の原田伊織さん=尼崎市若王寺2、尼崎市立ユース交流センター

 2022年が暮れようとしている。新型コロナウイルス禍は続くが、人間社会が少しずつ本来の日常を取り戻しつつある中、長い夜を越えて、人生に新たな展望を描く人たちがいる。新年を前に、それぞれの「夜明け前」を取材した。

     ◇     ◇

 12月上旬、兵庫県尼崎市立ユース交流センター(同市若王寺2)のフリースペースに、大学生や高校生5人が集まった。若者が直面する課題の解決策を市に提案するプログラム「Up to You!」の会議だ。

 中心にいるのは、代表の大学2年、原田伊織さん(19)=尼崎市。それぞれが関心を持つ課題を考える中、原田さんは「ヤングケアラー」の問題に取り組んできた。本来、大人がする家事や家族の世話を日常的に担う子どもをそう呼ぶ。

 自身も、その一人だった。母がうつ病と診断されたのは高校1年の時だった。

■「ヤングケアラー」の自覚なかった

 原田さんは2歳で両親が離婚。母と4人きょうだいで、生活保護を受けながら暮らしてきた。高校に入った頃は、年の離れた兄と姉は家を出て、1歳上の兄と母の3人暮らしだった。

 子どもの前で涙を見せなかった母が、頻繁に泣き出すようになった。家に帰ると「今日大丈夫だった?」と尋ねるのが、原田さんの役割になった。母はひきこもりがちな兄と言い争いを繰り返しては泣いた。

 母は仕事や家族の愚痴や不安を延々と話し、時に自殺をほのめかした。自室で勉強をしている時も、台所にいる母の様子が気になった。母が薬を取り出す音に耳を澄ませ、「いつもより多くないか」「死のうとしてないか」と不安だった。

 原田さんは放課後、進学資金のためにアルバイトをしていた。午後10時ごろに帰宅すると、母が泣いている。コートを脱ぐのも待たず、母の愚痴は始まり、遮ることもできないまま、日付が変わってようやく夕飯を口にする。そんな夜が珍しくなかった。

 夜中まで付き合った翌朝は起きられないことも。遅刻や欠席の理由をうまく説明できず、「サボった」としか言えなかった。友達には「適当なやつ」と思われ、積み重なった欠席や遅刻は大学の奨学金を申請するのにも不利になった。

 当時、ヤングケアラーの問題は社会の課題として捉えられ始めていた。だが、自分の境遇がそれに当たるという自覚はなかった。

■体が悲鳴、自分自身が無気力に

 Up-に参加したのは、高校3年の時だった。「大変な思いをしている同世代の役に立てるかも」と思い、ヤングケアラーの問題をテーマに選んだ。福祉系の学科にいたため、介護の知識や実習経験があった。

 調べるうちに、自分自身が当てはまることに気付いた。大学進学後、教員らにも相談して確信を深め、当事者を支援するNPO法人ふうせんの会(大阪市)にもつながった。

 だが、母親のケアと自身の活動の両立に、体が悲鳴を上げた。大学1年の秋、母親のそう状態が1週間ほど続き、振り回されるうちに自分自身が無気力に陥ってしまったという。

 家から出られず、ベッドから起き上がれない日もあった。ラインにメッセージがたまっても、返信する気力が湧かない。救いになったのは、自分の安否を気にかけ、立ち直りを支えてくれた人々の存在だった。

 年が変わり、少し動けるようになった頃、あえて家に母と兄を残し、シェアハウスに1週間滞在した。それほどの間、母と離れるのは初めてだったが、それなりに暮らせていたと後で聞いて、「意外と何とかなるんや」と肩の力が抜けた。

■社会に引き戻してくれたのは

 22年5月からは完全に家を離れ、シェアハウスで暮らす。「自分のやりたいことを心ゆくまでやることが、今の僕のやりたいこと」。自分の人生を自分で選べる喜びをかみしめる。

 自分を社会に引き戻してくれたのは、Up-の活動などを通じて自然に広がった地域とのつながりだった。原田さんは単なる居場所づくりだけでなく、ヤングケアラー一人一人に合わせた支援を提案する。

 「ケア負担の軽減だけでなく、本人のやりたいことをかなえるためには、多様な人とのつながりが必要だと思うんです」と話す。

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