出征、徴用、動員、戦死公報、疎開、供出、買い出し、空襲。そして終戦。
昭和20年8月。15日を境に、私たちの暮らしはどう変わっていったのか。31日まで半月間の光景を、神戸新聞が伝えた記事から再現した。(2005年8月16日付朝刊特集記事を再掲)
兵庫県内の空襲犠牲者は阪神・淡路大震災の倍、約一万二千人にのぼったとされる。焦土の中で、しかし地域社会の結びつきは強く、互いに支え合っていた。急速に悪化していく食糧事情も、終戦直後のこの時期は放出物資もあり、まだましだった。
何より戦争が終わった安堵(あんど)感、解放感が、生活再建への意欲を後押しした。一方で「鬼畜」と信じた連合軍の進駐におびえた。デマが飛び交い、神戸では9月にかけて三万人以上の女性らが、六甲山や北六甲へ逃げた。行政は「民心明朗化のため」として、進駐軍兵士懐柔の慰安・娯楽施設開設を急いだ。
その先遣隊六百人が神戸入りしたのは九月二十五日。翌日には姫路へと、県内全域に約一万二千人が駐屯する。やがてさまざまな交流も生まれ、そのころから本格的な戦後が始まる。(昭和20年当時の記事をリライト。末尾の日付は掲載日)
戦災復興-暮らし再建へ日々奔走
■空気入れます
被災市民にとって困ることが三つ。自転車と靴の修理に散髪。姫路市の国道筋に、ブリキ板で屋根をふいた自転車屋が現れた。焼け出され、ノリもチューブもないためパンクの修理はできないが、空気入れだけはできる(昭和20年8月18日)
■ガラス片を上薬に
焼け跡に散らばっているガラス片が、農園化にもやっかいな存在になっているが、明石市の陶芸家がこのガラス片を粉にして上薬に利用する製法を発表した。神戸の裏山や明石の田の粘土が、カマドやコンロ、土瓶の好材料として被災者の炊事に役立っている。この粘土焼の上薬として適している(21日)
■映画上映へ
15日から自主休業を続けている県内の娯楽施設について県は、1週間以内に再開させることにした。神戸市内だけで、湊川新開地の聚楽館や灘の六甲松竹など戦災を免れた六館が開館準備を進め、被害を受けた三宮楽天地の三宮劇場、三宮映画館も内部の復旧工事を急いでいる。姫路市でも松竹座は大部分が残り、映写機も一部が傷んだだけで済んでいる。完全な発声映画は無理だが、間に合わせのものなら間もなく上映できる、としている(22日)
■城崎温泉一般に
城崎温泉は26日から一般入浴に開放される。各旅館は戦争中、療養兵士の病舎になり、一般の入浴には時間制限をしていた。このほど病舎の引き揚げによって制限を撤廃することになった。八十軒余りの温泉旅館は業務用食糧が確保できさえすれば宿泊が可能になる。ただし主食糧は携行しなければならない(24日)
■洲本-大阪航路再開
長らく休航していた関西汽船の東浦航路は22日からの洲本-岩屋航路に続いて25日から洲本-大阪間を再開する(25日)
■建設の一歩は清掃
神戸では焼け残った家々、駅々にこうこうと電灯がともされ、食べ物もないなりに、ところてんや氷水の露店も見られるようになった。戦争がこうなったのはやむをえない。かくなる上は新建設あるのみ。そぐわないポスターや看板を取り除こう。張り紙一枚にも、涙なくしてはがせないものはある。しかし決戦は終結したのだ。電車内や窓ガラスの目張り、電柱など、建設への一歩は清掃からだ(25日、投書から)
■貨車の利用を
列車の屋根に乗ったりデッキに鈴なりに乗ったりして大阪鉄道局姫路管理部管内だけで、毎日平均三人の死傷者が出ている。このため大鉄局は大阪-下関間で貨車による七往復の旅客輸送を行っているが、姫新線、播但線にも貨車一本を配した。旅客は努めてこの貨車を利用してほしいと呼びかけている。
土山、加古川、宝殿、曽根駅だけでもここ数日で十二人が死亡し、相当人数が負傷。加古川署は各駅に署員を配置、取り締まりとともに乗車制限に協力している(27日)
■早く酒場を
県は民心明朗化のため酒場、キャバレー、ダンスホールなどの慰安施設の復活を急ぐこととし、とくに優先復活の地域を決めるなど動きを活発化させている。
対象地域は神戸市の三越百貨店以東、そごう百貨店以西、高架以南。ダンスホールの経営ではすでに同市内の四ホールが合同事務所を設けてダンサーやジャズバンドの募集を始め、酒場やキャバレーの復活も軌道に乗り始めている。県は、引き続き県内各地でも復活させていく。
宝塚歌劇は移動演劇隊として活躍した劇団が健在なので、大劇場その他の施設が空き次第、再開する(27日)
■忍べ、子のため国のため
宍粟郡の地方事務所が国家再建標語を募集し、優秀作を次の通り選んだ。郡内各所に張り出す。「一億が今の悲涙を増産へ」「何事も忍べ子のため国のため」「増やせ食糧減らすな貯蓄」(27日)
■佐用の人口急増
疎開者や戦災被災者で佐用郡の人口が急激に増えている。佐用署によると20日現在で四万九千人余り。復員軍人や都市部からの帰農者も加わり、月末には五万人を突破する見通し(28日)
食糧事情-配給頼み、地域総出で増産
■犯罪防止へ緊急会議
県警察部は15日午後2時から県会議事堂で緊急警察、消防署長会議を開き、戦争終結に伴う物資の買い占め、売り惜しみ、畑荒らしなどの犯罪防止に全力を挙げるよう指示した(16日)
■雑穀パンづくりに自信
相生市は食糧事情の悪化に備え、小麦粉を全く使わずトウモロコシなど雑穀粉だけのパンを試作した。栄養面でも従来のものと変わらず、雑穀だけでパンの製造、配給をしていける自信を深めた(19日)
■明石公園のサツマ芋大きく
明石公園で栽培中のサツマ芋は植え付けが早かったので相当大きな根が入っている。17日、関係者が集まり今後の盗難防止とともに9月いっぱいでの収獲を申し合わせた(19日)
■児童動員、焼け跡開墾へ
尼崎市は国民学校児童を総動員して食糧増産に乗り出すことを決めた。疎開している児童の措置が未定のため、とりあえず市内に残っている二千人に、焼け跡を主な対象に各校当たり一町歩(一ヘクタール)を開墾させる(21日)
■市営食堂が人気
外食者向けに開設された神戸市営食堂の利用者が日を追って増えている。朝食は二十銭でおかずはみそ汁かすまし汁、昼、夕食は三十五銭で昼のおかずは野菜か魚の二品盛り合わせ。消化不良が問題化している大豆はよく煮てある。容器を持参すれば詰め渡しもしている(22日)
■配給のよさは一時的
「戦争が終わったから配給事情はよくなるだろう」とか「占領軍が来れば配給はめちゃくちゃになるから、今のうちにうんと食っておく」などと、最近の配給のよさをめぐってさまざまなうわさが飛んでいる。県食糧営団理事長に聞いた。
「いろんな特配があったためデマが飛んでいる。占領軍に食べられるから配給する-などはその最たるもの。缶詰や乾パンはこれ以上保存したら腐敗するからであり、砂糖や食用油は、軍需品を振り替えたから特配になった。現在の配給のよさは一時的なものであり、本当の食糧逼迫(ひつぱく)は来年春ごろからと想像される。今から増産の手を打つべき」(23日)
■香住で塩づくり
城崎郡香住町で四百三十人が製塩に取り組んだ。おけにくんだ海水を砂浜一面にまく。炎天下、その砂を集める。百余りのたるに詰め込むと、ポトポトと塩水が落ちてくる。釜で煮詰める。真っ白な塩が一日で十六貫(六十キロ)に達した(24日)
■宍粟でキュウリ出荷ピーク
宍粟郡の品質自慢のキュウリが最盛期を迎え毎日三千貫(一一・三トン)を送り出している。サツマ芋は疎開者や学童も加わって二百町歩(二百ヘクタール)余りを作付けしたが生育がよく、今月末から収穫が始まる。総量で八十万貫(三千トン)を下るまいと予想されている。芋畑での野猿の捕獲も好成績を挙げている(24日)
■淡路で増える出漁
淡路では出漁する姿が著しく増えている。全島沿岸に漁船の出入りが頻繁になり、長らく生鮮魚に縁の薄かった一般家庭に配給されるのも近いうちと見られている(24日)
■松根油、さらに増産
但馬で終戦後初の町村長会議が開かれ、松根油、松ヤニは戦後再建に重要な役割を果たすため、引き続き増産態勢で臨んでいくことが決まった(28日)
■イカの大群来たが
城崎郡香住町沖の日本海にイカの大群が集結していることが分かった。浜で歓声が上がったが、油不足で出漁がままならず、海岸に近づいてくるのを待つしかない。移動状況から見て9月13日ごろになりそう(30日)
進駐軍-「鬼蓄」デマに女性避難
■上陸は停戦協定後
16日午後、大阪に米軍が上陸したとの流言が飛び、町内会長が「女子は非常食を持って避難せよ」と指示したため、大騒ぎになった地区もある。連合軍が上陸するのは停戦協定を結んでから。県警察部は18日、「無用の心配をしないように」と呼びかけた(19日)
■牛や馬食べられる?
占領が行われると牛、馬、豚、ニワトリなど家畜類は徴発され食べられてしまうとの説が農村部に広まっている。欧米人は肉類が好物だから上陸したら最後、食べてしまうというのは皮相的すぎる。
占領は厳粛な統制のもとに行われる。かりにそのために政府が食糧調達を強化するとしても、進駐軍の数は限られており、個々の農家が供出を心配するほどのことはない(21日)
■すき見せるな
上陸する連合国軍の将兵をどう迎えるかについて内務省は22日、詳細な注意事項を決め、隣組を通じて回覧、徹底することとした。
外国軍人に個人が直接接触することは努めて避けること▽ただし、先方から求めてきたときは毅然(きぜん)とした態度で接すること▽言葉が通じないため摩擦や間違いが起こりやすい。万一のことを考え、町内会などで英語が話せる人を活用するのも一策▽婦女子は日本婦人としての自覚を持ち、すきを見せるようなことや、ふしだらな服装をしてはいけない▽「ハロー」とか「ヘイー」、あるいは片言の日本語で呼びかけられても、婦女子は相手にならぬこと(24日)
■投下物資当たり死傷
連合軍の進駐を前に神戸では27日から米空軍の監察飛行、物資投下が始まった。28日午後1時ごろ、捕虜収容所向け物資の入ったドラム缶数個が県警察部前で投下されたがパラシュートが開かず、下にいた市民らに当たり、一人が死亡、二人が重傷を負った(30日)
投書から-もの言える時代に
■今は反省を
最近、列車内や待合室で過去のことを小ざかしくいうのを聞く。はなはだしきは責任者の追及にまで脱線する。なんということだ。その心情は分かるが、今は冷静に反省すべきではないか。人を責める前にまず自身を反省すべきである。祖先に対し子孫に対し、われらはどの顔下げてまみえよう(20日)
■さもしいことを言いたくないが
乏しい食卓を見つめながら妻が「○○さんは勤め先の会社の備蓄品の整理で砂糖と練乳を持って帰られた」とため息まじりに言う。「何をさもしいことを」と一応たしなめてみたものの、小生の胸にも割り切れないものがあった。
近ごろはどこの会社、工場でも倉ざらえをしていて衣料品や食料品を従業員に配っているのだ。その家庭にはありがたいことだろうが、聞かされる家庭の不愉快さは反比例して大きい。
戦時中は増産戦士に特配があるのは当然だったが、今や情勢は変わっている。乏しい配給だけで頑張ってきた家庭にも一律に配給されるべきではないか。諸物資は再建日本の門出に用いられるべきだ(23日)
■配給に頼るなと言われても
配給に頼らず自給せよと当局は言うが、自給菜園にも限度がある。私もささやかな畑を持ってはいるが、野菜の自給など及びもつかない。食生活に工夫を凝らせと指導者は言う。「おみそを少々」「メリケン粉で練って」などとありもせぬ材料で面食らわせる。自分の奥さんとも相談の上、実際の配給の上に立って意見を述べてほしい(23日)
■なぜ、干しイワシが
不思議なことに道を歩いていると、軒下に小麦が干してある。配給にそんなものはないのにと思っていると、今度はイワシがたくさん干されている。まさか自給菜園のものではあるまい。こんなところを追及すれば闇の根本が白日にさらされるのではないか(23日)
■見失うな日本国民の美点
神戸や明石、姫路など戦災に遭った都市を歩いていて最も強く感じるのは、街が非常に汚れていることである。大通りの片隅や焼け跡に大便までが散乱して異様な臭気に満ち、非衛生なことこの上ない。外国人がこれを見たら、日本が現在の立場になったのも当然だというかもしれない。われわれは日本国民の美点を失ってはならない(29日)
配給-「供出品」も放出
○兵庫県=近く、県内各家庭に水産物を特配する。ニシン、マス、イワシ、カズノコ、イカナゴで、地区によって種類は違う(23日)
○神戸市=缶詰、1人2個程度(品種問わず)。17日から21日まで(18日)▽育児用乳製品を繰り上げ配給する(19日)▽9月分のパン登録を都合により中止する(19日)▽イチゴジャムを3-10歳児1人に1缶。家庭用食用油1人当たり1合(0.18リットル)(22日)
○明石市=乾めんパンとサケの缶詰、かつお節を配給。さらに近日中に米穀雑穀を取り混ぜて(20日)▽戦災家庭に肌着を配ったが、未配給の人に27日から3日間に限り実施(23日付)▽戦災に備えて供出、各隣保で保管していた布団が戦争終結で不要になったため、近く被災者に配給する(26日)▽マッチを30日から1世帯に1箱。1円50銭のものを半額で(30日)
○西宮市=7月24日、8月6日の空爆被災者1世帯にせっけん1個、台所用品3点を(20日)▽両空爆の被災者にげた1足と鼻緒を。8月6日の空爆被災者には清酒の空き瓶を1世帯に2本特配(26日)
○姫路市=凍り豆腐を目下入手中。砂糖も近く配給(22日)
○赤穂郡=各家庭に入浴用、洗濯用せっけん各1個を(20日)▽木製スリッパ、ろうそくを近く配給(27日)
広告ににじむ世相-新生活の息吹少しずつ
「焼け跡の金庫迅速に開けます」(16日)
「生後十カ月女児。もらわれたし」(20日)
「英仏会話できる人至急求む」(20日)
「農耕可能地譲り受け、または借り受けたし」(26日)
「馬車、荷車のご用命受けます」(26日)
「ダンサー百名、ジャズバンドマン数名募集」(26日)
「タイプライターの修理します」(30日)
「古着、古服確実に買い受けます」(31日)
住宅再建-「平時」のための設計に
■防空対策不要に
姫路市は、復興家屋の設計変更を始めた。これまでは半地下にしていたが、戦争が終わったためその必要はない。通風採光に主眼を置いて再建していく(19日)
■灯火管制、従来どおり
赤穂署はその筋の指示があるまで一般家庭の夜の灯火管制は従来どおり続けることとした(19日)
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