兵庫県内の中学、高校で太平洋戦争末期に沖縄県知事を務めた神戸市出身の島田叡（あきら）が、平和学習の教材として脚光を浴びている。民間人を含む２０万人以上が犠牲になった戦場で、住民の生命を守ろうとした行動が平和の尊さを訴える。現地とのオンライン交流、修学旅行など教師らも多彩な手法を工夫する。（津谷治英）

■「今も道路工事中に不発弾見つかる」那覇高生と意見交換

　今月１５日、兵庫県の加古川市立両荘中学校。視聴覚教室に設置された大画面の向こうで、沖縄県立那覇高校の生徒たちが話し始めた。

　「沖縄戦では県民の４人に１人が犠牲になりました。加古川市の人口の半数くらいです」

　平和をテーマに企画されたオンライン交流授業で、講師役は那覇高の生徒会有志。両荘中は３年生約６０人が画面の前に集まり、１、２年生も各教室で視聴した。

　住民たちがガマと呼ばれた自然壕（ごう）に避難したこと、飢えに苦しんだこと…。悲惨な地上戦について高校生が語る。その中で住民の食糧調達に奔走した島田についても触れた。

　意見交換が始まると、３年の高橋羽乃亜さん（１４）が質問した。「普段の生活の中で戦争の跡を感じることはありますか」。那覇高３年の平安座瑞貴（みずき）さんが答える。「今も道路工事中に不発弾が見つかることがある。沖縄には戦跡がたくさんあり、そこへ行くと戦争を身近に感じます」

　両荘中２年の西川毅さん（１３）は「民間人がたくさん亡くなったと知りショックだった。沖縄は小学校から平和学習をしている。僕もこれから勉強していきたい」と誓った。

　同中は修学旅行の事前学習として、沖縄戦を含む平和学習に力を入れる。今年は全校生を対象にウクライナ侵攻、長崎の原爆をテーマに専門家を招いた。神吉直哉校長（５８）は「生命の重さを伝えるのは教育の根源。現地の高校生が沖縄戦の貴重な話をしてくれ、生徒らの心に響いた」と手応えを口にする。

■「家族全員が死んだ家も…泣きそうになった」平和の礎を見学

　加古川市立平岡中学校の３年生は６月、修学旅行で沖縄を訪ねた。平和祈念公園（沖縄県糸満市）では、犠牲者の名を刻む「平和の礎（いしじ）」を見学した。

　千原優希さん（１４）は「同じ名字の人がたくさんいた。家族全員が死んだ家もあると聞いて、泣きそうになった」。犠牲者数の多さに圧倒されたという。

　ガイドが島守の塔も案内してくれた。島田ら沖縄県職員の犠牲者を追悼する慰霊碑だ。新妻遼己（はるき）さん（１５）は「島田さんは若い職員らに生きなさいと話した。命を捨てることが大事と言われた時代に、勇気のある人だと思う」と話す。

　同中が初めて沖縄を修学旅行先に選んだのは２０年前。ところが新型コロナウイルスの感染拡大で２年前と昨年は中止に。今年も危ぶまれたところ、ロシアによるウクライナ侵攻が連日、報道された。

　「今こそ、戦争の悲惨さを学んでほしい」。谷本耕三校長（６０）はそう考え、保護者会で沖縄行きの理解を求め賛同を得た。

　生徒たちは事前学習で考えた独自の平和宣言文を島守の塔の前で読み上げた。「私たちは今、宣言する。すべてを奪う戦争を許さないことを。次の世代に正しく伝えていくことを－」

　島田叡の母校・兵庫高校（神戸市長田区）も、７年前から修学旅行で沖縄へ行く。大先輩をしのび、島守の塔を参拝するのが慣例。昨年１２月に訪ねた３年生有志は今、戦史学習から沖縄の貧困を研究する。

　足立優香さん（１７）は話した。「戦後は米国の統治下になり、今も基地が集中している。７０年以上前の戦争の影響が今も続いている。沖縄の苦難をもっと学びたい」

【島田叡（しまだ・あきら）】１９０１年、神戸市須磨区生まれ。旧制神戸二中（現兵庫高）卒業後、三高を経て東京帝国大（現東京大）へ入学。旧内務省に入省し、各地の警察部長、大阪府内政部長などを歴任。４５年１月、最後の官選知事として沖縄へ赴任。６月末に消息を絶った。

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　太平洋戦争末期の沖縄県知事、島田叡らを描いた映画「島守の塔」（神戸新聞社など製作）が、兵庫県では８月５日からキノシネマ神戸国際、ＭＯＶＩＸあまがさき、同６日から元町映画館などで上映予定。