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幼い自分を抱く両親の写真を手に、歩みを振り返る中村翼さん=神戸市中央区東川崎町1(撮影・小林良多)
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幼い自分を抱く両親の写真を手に、歩みを振り返る中村翼さん=神戸市中央区東川崎町1(撮影・小林良多)
生まれたばかりの翼さん。神戸市中央区の病院とみられる=1995年1月17日(提供)
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生まれたばかりの翼さん。神戸市中央区の病院とみられる=1995年1月17日(提供)
翼さんをあやす父威志さんと母ひづるさん(提供)
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翼さんをあやす父威志さんと母ひづるさん(提供)
大学4年のころ。神戸市立塩屋北小学校で、児童に生まれた日のことを初めて語った=2016年12月(提供)
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大学4年のころ。神戸市立塩屋北小学校で、児童に生まれた日のことを初めて語った=2016年12月(提供)
神戸新聞NEXT
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 中村翼さん(27)=神戸市兵庫区=は阪神・淡路大震災の発生当日、被災した神戸の病院で生まれた。多くの命が失われた日に生を受け、「1・17生まれ」が重荷だった時期もあったという。震災の語り部となったいま、「あの日に生まれてこられて良かった」。笑顔で話す中村さんに1万日の歩みを振り返ってもらった。(上田勇紀)

■暗闇の中で

 1995年1月17日午前5時46分。神戸市兵庫区松原通のマンション10階。寝ていた翼さんの父威志(たけし)さん(52)と母ひづるさん(51)を激震が襲った。出産予定日は1週間後。威志さんがひづるさんにおいかぶさり、おなかを守った。

 2人はパジャマ姿のまま階段を駆け下り、近くの小学校へ。運動場に着いて間もなく、ひづるさんが破水した。「生まれるかも」。威志さんが車の鍵を取りにマンションに戻る。その間、寒さに震えていたひづるさんに見知らぬ女性が声をかけた。「車に乗って」

 威志さんの車で同市中央区の病院に向かった。倒壊した建物や渋滞でなかなか進まない。事情を聞いた交通整理の警察官が迂回(うかい)路を案内してくれた。3時間ほどかけてたどり着いた病院は外壁が崩れ、電気や水道は止まっていた。

 陣痛の波が強まる。暗闇の中で威志さんと看護師が懐中電灯で照らし、お産が始まった。余震が続き、病院も倒壊する恐れがあるため、吸引分娩(ぶんべん)で出産を早めた。午後6時21分。翼さんは産声を上げた。

■葛藤の日々

 「1・17生まれ」として幼いころからテレビの取材を何度も受けた。だが、震災の記憶は何もない。当時を振り返る両親の横で座っていた。

 威志さんの仕事の関係で小学5年から岐阜市に移る。中学3年の途中で神戸市に戻ると、また震災の取材があった。「これからどうしていきたいですか」。問いかけられて戸惑った。「震災で肉親を亡くした人が見るかもしれない」。そう思うと気持ちが乱れた。

 高校に入ってからも誕生日には震災のことが頭をよぎった。「1月17日は単に自分の誕生日。そう考えるようにしても純粋に祝えなかった」。そんな様子を気遣ってか、両親も震災の話をしなかった。

 2013年4月、神戸学院大学に入学。防災の授業で人と防災未来センター(神戸市中央区)を訪れた。目にした被災時の映像に衝撃を受ける。それから次第に翼さんは防災に関心を寄せていく。震災を一から学びながら、自分が生まれた日のことを想像した。

 4年生の秋、指導教員に勧められ、両親に当時のことを初めてインタビューした。断片的にしか知らなかった事実がつながっていく。避難所で車に招いてくれた女性や、誘導してくれた警察官ら多くの人の支えがあって生まれてきたことを知った。

■命の大切さ

 同じ年の暮れ。神戸市内の小学校に招かれ、両親から聞いた「あの日」を児童に語った。防災について学んでもらう出前授業を担当した経験はあったが、自分のことを話すのは初めてだった。

 「1月17日に生まれたんですよ」。その言葉だけで子どもの表情が変わったと翼さんは言う。当時の状況を振り返り、命の大切さを伝えた。確かな手応えがあった。

 「語ることが、1・17に生まれた自分にできる恩返しかもしれない」

 就職後、大学時代の恩師に誘われ、震災の教訓を伝える団体「語り部KOBE1995」に加入した。震災の遺族もメンバーにいたため、「自分がここにいていいのか」と戸惑ったが、「ぜひ語ってほしい」と背中を押された。会社員として働きながら、兵庫だけでなく、東日本大震災が起きた仙台市などでも講演を重ねてきた。

 「生きたくても生きられなかった人がいる。知らない世代にもっともっと知ってほしい」。語り部として翼さんは決意する。「僕だからこそ、伝えられることがあるはず」

【特集ページ】阪神・淡路大震災

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