小雨が降っていた。1995年7月2日、神戸市須磨区の実家跡に立つ佐藤悦子さん(58)のすぐ後ろに、姉の齊藤礼子さん(70)の姿があった。
阪神・淡路大震災で行方不明になったままの母、佐藤正子さん=当時(65)=を弔う読経が響く。親戚に促されての葬儀だったが、悦子さんは区切りをつける気になれない。おっとりした母の顔を思い浮かべる。全壊し、火に包まれたアパートからは遺体も骨も見つからず、骨つぼには跡地のがれきを入れた。ふと見ると、姉も泣いていた。
須磨警察署から異父姉の存在を知らされたのは、この年の3月半ばのこと。母は最初の結婚で娘を産み、離婚後に2歳半で養子に出した。それが礼子さん。群馬県に住んでいた。
悦子さんの兄も、母が再婚とは知らなかった。地震の前年に母を置いて家を出た父を問いただすと、「子どもがいたことは、わしも直接聞いてないんや」。どうやら両親の不仲の原因らしい。しかし、悦子さんは姉の存在を喜んだ。
ほどなく、きょうだい3人の対面が実現する。JR鷹取駅前で見た瞬間に姉だと分かった。顔も体形も母によく似ていた。
◇
震災の翌日、悦子さんは不思議な体験をする。連絡の取れない母を心配しながら、どうしても外せない仕事があって加古川市内の会社に出勤した。
夕方、来客用のコーヒーカップを洗っていると人の気配がした。給湯室の入り口にかかるのれんの向こうに誰かが立っている。あいにく他の社員は不在。人影が動いたので慌てて給湯室を出ると誰もいない。
「あっ」と思った。のれんの下からのぞいた服に見覚えがある。母が冬によく着ていた毛糸のロングスカートと、毛玉ができた靴下。「お母ちゃん、何かを言いに来たんやろうか…」。嫌な予感がしたが、不思議と怖くはなかった。
だから、姉がいると聞いて胸にすとんと落ちた。「黙っていたけれど、もう一人娘がいる」。母はそれを伝えたかったのだろう。手放した娘に会いたくて親戚に相談していたと後に聞き、胸が詰まった。
一方、姉の礼子さんは高校生の時に自分が養女だと知る。結婚後、子育てが一段落したら実母を捜すつもりだった。そこへ、阪神・淡路が発生。須磨署から「お母さんがそちらに行っていないか」との電話を受けた。
「ずっと一人っ子だと思っていたから、妹と弟に会えたのはうれしい」と礼子さん。でも母には…。遺骨すらなく、会えないままに参列した葬儀で流した涙は、悔し涙でもあった。
震災翌年の96年、裁判所から失踪宣告を受け、正子さんの戸籍は抹消される。兄が手続きをした。
しかし、悦子さんは諦めない。シングルマザーとして小学生の娘2人を育てながら、母の手がかりを探す日々。悲しみや怒り、焦りから家事が手につかなくなり、夜も眠れない。通院すると、うつ病と診断された。
【連載】
(上)遺体も遺骨も見つからず
(下)今も心にいるのに…
<識者インタビュー>龍谷大学短期大学部 黒川雅代子教授に聞く
【特集ページ】阪神・淡路大震災
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