まだ見ぬメダルが挑戦への原動力だ。28日の東京五輪飛び込み男子に40歳の寺内健(ミキハウス、宝塚市出身)が登場する。一時引退や自らの新型コロナウイルス感染を乗り越え、夏季大会で日本選手最多タイとなる6度目の舞台にたどり着いた。「金メダルを目指すと決め、この5年歩んできた」と日本飛び込み界初の表彰台を狙う。
「平成が終わって次の元号になって、まだオリンピックを目指してるとは思わなかった」と笑う寺内。天性のバランス感覚と体のバネが魅力だ。
JSS宝塚スイミングスクールで本場中国出身の馬淵崇英コーチ(57)に見いだされ、15歳の1996年、アトランタで五輪初出場。次のシドニーでは高飛び込み5位と躍進した。一度引退を経て2大会ぶりの五輪となった2016年リオデジャネイロでは屋外プールの風に悩まされ、板飛び込みで予選敗退した。
失意の36歳にレジェンドが声を掛けた。「次、頑張れよ」。ミキハウスの先輩で五輪柔道3連覇の野村忠宏さん(46)のひと押しで、4年後を目指す覚悟を固めた。
決戦の舞台は新型コロナウイルス禍で1年延期。さらに昨夏には自身の感染で入院し「医療の大変な現場を見た。正直、開催がいいのかどうか分からない」と心は揺らいだ。考え抜いた末「開催国の日本が先陣を切り、感染予防策やおもてなしを進める。その上で目標を達成する」と誓った。
8月7日には41歳を迎える。世界の同年代の元戦友たちはコーチや審判などを務める。「審判は『ケン、頑張れよ』なんて言いながら、結構辛い点数を付けるんですよね」。冗談交じりに言いつつ「パフォーマンスや体はこの数年、あまり変わっていない」と手応えもある。練習量を上げてもへこたれないし、けがをしても「屁とも思わない」。
1964年の東京五輪には寺内を幼少期に指導した馬淵かの子さん(83)が出場し、女子板飛び込みで7位。以後も世界最高峰のステージに飛び込み王国・兵庫の系譜が刻まれてきた。今大会は日本代表の男女11人中、5人が兵庫勢だ。
寺内は恩師と同じ東京で集大成を描けることに「運命」を感じている。「生きざまが乗ったパフォーマンスを見せたい」。28日にシンクロ板飛び込み決勝、8月2日には板飛び込み予選に挑む。(藤村有希子)
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