「♪深江よいとこ　潮風受けて　ヨイヨイ」。東灘高校（神戸市東灘区深江浜町）の生徒らが、地域に伝わる民謡「深江音頭」を約７０年ぶりに復活させた。戦後復興を願って作られ、楽譜が残っていなかった曲のメロディーを、当時を覚えている住民の協力を得て再現。生徒らは「地域がまた盛り上がるきっかけになれば」と思いを込める。（谷口夏乃）

　きっかけは２０２０年１２月、同校放送部が阪神深江駅のコロナ感染予防を啓発する放送の担当になったことだった。これに加え、同駅長から「放送前に流す音楽も作ってほしい」と依頼された。

　同校は地域と連携して学校を運営する「コミュニティースクール（ＣＳ）」の県試行校。「せっかくなら地元の深江に関わるものがいい」と、ＣＳ委員長を務め、深江の歴史にも詳しい深江南町２丁目自治会長の森口健一さん（７５）に相談。森口さんが提案したのが「深江音頭」の復活だった。

　森口さんによると、深江音頭は１９４６年５月２０日、地元の神社の祭りで発表された。当時の深江村議員だった黒田清一さんが作詞し、村職員の細野寛一さんが作曲したという。

　かつて漁村として栄えた深江。６番まである歌詞には、空襲被害からの復興を後押ししようと、「沖にゃ網船　ポンポ船」や「今日も工場で　槌（つち）の音」など、当時のにぎやかな村の情景が歌われている。その年の夏から５０年ごろまで、盆踊りなどで使われたという。

　しかし、合併で神戸市になると「深江」の色も徐々に薄れていった。７５年前に作られた音頭は、森口さんが保管する歴史資料の中に歌詞は残っていたものの、楽譜はなかった。

　そこで、放送部員がメロディーを記憶していた地元の８０代の女性２人に依頼し、歌を再現して録音。同校吹奏楽部員で３年の林賢美（さとみ）さん（１７）と浜田梨花さん（１８）の２人が、譜面に起こしていった。

　２人は授業や部活動の合間にグランドピアノや楽譜を作成するパソコンソフトを使って作業。民謡独特の音階やリズムに触れるのは初めてで、完成までに約３カ月を要した。林さんは「貴重な経験をさせてもらった。地域の皆さんに喜んでもらえればうれしい」と達成感をにじませる。

　完成した楽譜を吹奏楽部が演奏し、同校音楽教員が歌唱。それを再び放送部員が録音し、編集した。

　復活した深江音頭は、クラリネットやサックスなどの管楽器の伸びやかな音色に音頭特有のリズムが合わさり、手拍子を取りたくなるメロディー。音源化され、９月末まで阪神深江駅で流された。放送部員で２年沢津（さわつ）美沙希さん（１６）は「音と歌がけんかしないように編集し、いいものができたと思う」と笑顔で話した。

■深江音頭の歌詞■

（１番）

深江よいとこ　潮風受けて

ヨイヨイ

今日も出船か　勢ぞろひ

沖にゃ網船　ポンポ船

大漁大漁で戻り船

アリャサットサット　戻り船

（２番）

深江よいとこ　そよ風受けて

ヨイヨイ

六甲降りれば　復興町

軒並みそろへて　大繁盛

栄え栄えて　明けて行く

アリャサットサット　明けて行く

（歌は６番まで）

■継承へ地域定着目指し　曲に合わせた振り付け　体育祭で披露　東灘高

　復活した「深江音頭」を再び地域に根付かせ、後世に伝えていくための取り組みも始まっている。

　東灘高校は、地域の福祉センターで日本舞踊を教える藤間流の藤間祥寿さんに、曲に合わせた振り付けの考案を依頼。今月６日、同校１年の女子生徒が体育祭で披露した。

　また、神戸深江生活文化史料館（神戸市東灘区深江本町３）では、復活を記念した写真展「東灘高生の選んだ　よみがえる『深江音頭』の風景」（神戸新聞社後援）が開かれている。

　同校の写真部員が同館の所蔵写真の中から、１９００年代初頭から６０年代までの深江を収めた２０点を選んだ。写真説明は部員たちが作成した。部員で２年の女子生徒（１７）は「歌詞と結び付く風景を選んだ。写真説明は場所や当時の様子が分かるように意識した」と話す。

　写真展は来年３月２７日まで。土日のみ開館。午前１０時～午後５時（入館は午後４時半まで）。入館無料。同館ＴＥＬ０７８・４５３・４９８０