針路21

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 阪神・淡路大震災から28年を迎えた。改めて、28年前の私たちの「決意」を問い返したい。その決意は、自立回復と社会創造という二つの目標に要約される。

 前者の「自立回復」の決意は、支え合って悲惨な状況から抜け出そう、元通りの幸せな暮らしを取り戻そう、というものだった。後者の「社会創造」の決意は、残酷な悲劇を繰り返さない、安心できる災害に強い社会をつくろう、というものだった。前者は絶望の克服、後者は希望の創出を求めている。

 まず、自立回復の実態を直視しよう。自立できていない被災者が少なくない。生活再建が図れない被災者、震災での障害に苦しむ被災者、家族を失った悲しみから抜け出せない被災者がたくさんいる。

 こうした被災者が、今なお存在するのはなぜか。その原因を明らかにしなければならない。被災者の自立回復を促すうえでも、社会システムの欠陥を正すうえでも、みんなの復興への努力を継続してゆかねばならない。復興はエンドレスである。

■減災教育のあり方問い直す

 次に、社会創造について検証しよう。28年が経過したということは、それだけ次の大震災に近づいたということだ。南海トラフ地震の発生確率が20年以内に6割とされ、待ったなしの状況にある。安全な社会をつくることが喫緊の課題だ。自立回復以上に社会創造に力を入れなければならない。

 ところが、大震災の教訓に学んで私たちがつくり出した「住宅再建共済制度」(フェニックス共済)への加入が、遅々として進んでいない。家具の転倒防止も感震ブレーカーの設置も進んでいない。確実に襲来するリスクに対して極めて無防備と言える。28年の節目を、あの時の地獄絵を想起し、同じ苦しみを繰り返さないという決意を新たにする場にしなければならない。

 次に備えるうえでは減災基盤の整備や社会体力の強化が欠かせない。減災基盤とは、被害の軽減につながる社会的な土台をいう。病魔に対して心身の健康を育むように、災害に対して社会の体力を育むのである。その土台づくりや体力づくりが、致命的に遅れている。災害に対する予防医学や公衆衛生が求められ、減災文化や社会包摂が求められている。

 減災基盤づくりでは、マクロとミクロの課題がある。

 マクロな課題では、社会の体質を俯瞰(ふかん)的に捉え、そこに内在する脆弱(ぜいじゃく)性を改めることが求められる。地球温暖化に歯止めをかけることも、貧困の解消に努めることも、コミュニティーのつながりを育むことも、含まれる。

 2015年に仙台で国連の防災会議が開催され、ビルドバックベター(よりよい復興)の名のもとに、安全に資する社会創造が呼びかけられた。まさにその同時期に、国連はSDGs(持続可能な開発目標)の呼びかけを行っている。この相前後しての表明は、ビルドバックベターとSDGsが表裏一体の関係にあることを示している。SDGsが提起する健康や福祉に努め、ジェンダー平等を実現し、住み続けられる街づくりを図ることなどは、次の災害に備えるうえでも欠かせない。

 ミクロな課題では、個々の環境を具体的に捉え、リスクを回避することや身の回りの環境を整備することが求められる。マクロでは災害に強い社会が求められるが、ミクロでは災害に強い人間が求められる。SDGsでも、人間が強くなるための「質の高い教育」を提起している。そこには、減災リテラシーの醸成が含まれる。

 震災28年を迎えて、人間が災害に強くなることの必要性を、再確認したい。自立回復の取り組みで、ひとり一人の人間を大切にする「人間復興」の重要性を学んだ。社会創造でも、人間を中心におくことを大切にしたい。ひとり一人が災害から守られ、災害に強くなる「人間減災」を追求したい。

 減災教育のあり方と、減災人材の配置を問い直したいと思う。

 減災教育は、知識の詰め込みや技能の習得に偏りすぎ、減災の心や行動を育むことができていない。減災教育を熱心に行ってはいるが、先に述べたマクロな課題への取り組みにも、家具転倒防止や共済保険加入などのミクロな取り組みにもつながっていない。現場と心情を大切にする教育の再構築を望みたい。

 減災人材の配置も再検討しなければならない。市民すべてが減災の知識を理解し活用するリテラシーを持つためには、その傍らに減災をリードする専門家を配置することが欠かせない。コミュニティーや企業は言うに及ばず、教育や行政の現場の隅々に、減災リーダーを配置しなければならない。

 ところで、この人材の配置で最も遅れているのが行政である。目まぐるしい人事異動のためノウハウが蓄積しないし、職員への減災教育の手を抜いているので見識と行動力のあるリーダーがいない。隗(かい)より始めよで、行政がまず身を正さないといけない。

(むろさき・よしてる=CODE海外災害援助市民センター代表)

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