じぶんがどういう状態にあるかということに思い煩うのが、ひと(、、)というものである。人間以外の動物ももちろん恐怖や怒りの感情、ひょっとしたら悲しみの情ももつかもしれないが、おのれの置かれた状態を嘆いたり、呪ったり、悲観したりはしない(とおもう)。一方、おのれの死を予感した犬や猫は、人知れずひそかに身を隠すという話を聞いたことがあるが、それはそれで死の儀礼を集団でとりおこなう人間の死にざま以上に、崇高な感じさえする。
みずからの〈存在〉について思い煩うなどといえば、ちょっとたいそうな物言いになりそうだが、要は、じぶんがここに「ある」(在ル・有ル)こと、もしくは「いる」ことを、じぶんでどう感じているかということである。
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