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(12)地域の役割分担構築を 被災地の取り組みどう継続
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 キーボードの演奏に合わせて歌声が響く。「茶摘み」や「浜辺の歌」と、懐かしい曲ばかりだ。

 神戸市東灘区の福井池公園に建つ高齢者・障害者向け地域型仮設住宅。木かげに六つの机が並べられ、住宅と地域の高齢者ら約四十人が集まった。ボランティア、東灘・地域助け合いネットワークによる「茶話(さわ)やかテント」。菓子を食べながら、会話が弾む。かつて親しんだ歌に、さまざまな思いが込みあげるのか、涙ぐむ高齢者がいる。

 「仮設で活動を始めて一年。住民同士の交流、娯楽、地域との接点…。テントにはいろいろな意味がある」と、当初から茶話やかテントを担当するボランティアの上村光代さん(30)。

 同ネットワークは昨年二月に結成された。混乱が続く中で、水くみや安否確認、話し相手、戸別訪問など活動は多岐にわたった。だが、活動するうちにネットワークの役割が見えてきた、と代表の中村順子さん(49)は言う。

 「ドアの中を支えるサービスは、ホームヘルパーや訪問看護婦らに任せ、私たちはドアの外に徹しようと考えるようになった」

 ネットワークは、昨秋から「ドアの中」を順次、ヘルパーらに引き継いでいく。ボランティアらが担う「外」の役割も、外出介助や買い物など個々人を支えるパーソナルケアや、茶話やかテントに代表されるコミュニティー活動など多様である。

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 高齢社会を迎え、専門家が担う「ドアの中」は今、公的介護保険制度で、その充実が検討されている。制度の基本は、高齢者らが自ら利用するサービスを選択できることにある。

 先月三十日、厚生省が発表した最終試案によると、三年後の一九九九年度からホームヘルパー派遣など在宅サービスを先行実施し、二〇〇一年度をめどに特別養護老人ホームの入所など施設サービスに拡大する二段階方式を取る。財源は四十歳以上の負担で賄われ、スタート時の保険料は月額五百円である。

 しかし、高齢者がそれぞれに望むサービスを十分に受けられるのかどうか。

 最終試案は四月下旬、厚相の諮問機関・老人保健福祉審議会が出した最終報告とは違っていた。審議会は在宅と施設サービスの同時実施を求めていたが、最終試案では「二段階実施」という形で切り離された。

 神戸市看護大の岡本祐三教授は、何が将来の福祉に必要かという論議よりも、政治の思惑で最終試案が出てきたと批判する。

 「選挙をにらむと新たにちょうだいするお金は低い方がいいという自民党の保守本流の反対で、保険料を五百円にした。そのためにサービスの時期をずらしてしまった」

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 老健審の最終報告は「市民参加型の体制を組み入れたシステムの構築」を求めているが、それもまだ指摘に終わっている。

 東灘ネットワークの中村さんは「介護保険はドアの中を支えるサービスだけで、完ぺきではない。それを核に、多くの市民の助け合いが必要だ。超高齢社会を支える地域の力は、市民、企業、行政がそれぞれの役割を果たし、連携することなしには発揮できない」と強調する。

 震災後、仮設住宅などの高齢者らを支えるさまざまな活動が生まれた。問題に直面し、壁にぶつかりながら、ボランティアや福祉・保健・医療関係者らは、今も模索を続けている。新たな取り組みを根付かせようと努力している。

 被災地の取り組みを発展させていくことが、福祉の将来につながる。

西海恵都子、網麻子、石崎勝伸)=第10部おわり=

1996/6/1
 

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