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(4)高齢者の実態把握急務 「仮設後」も24時間ケア住宅を
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 毎朝九時、和室の六畳間に生活援助員が集まってくる。窓から差し込む初夏の光がまぶしい。

 「B棟です。AさんとBさんの顔はまだ見ていません。夜中の三時、Cさんの部屋でドスンという音がしました。転んだが大丈夫とのことです」
 「D棟です。夕食を抜いたEさんが深夜零時、おなかがすきすぎて気持ち悪いとコールしました。お茶漬けをつくりましたが、ほとんど口にされていません」

 二十四時間体制で入居者を見守る芦屋市呉川町のケア付き地域型仮設住宅。四棟の約五十人を支えるのは、芦屋市から運営を委託された社会福祉法人・尼崎老人福祉会の職員だ。

 交代で夜間は三人が泊まり込む。各部屋からの緊急通報システムも整備され、毎朝のミーティングで、夜の状況を確認し合う。

 入居者は平均七十八歳。身体に障害を持つ人は十二人にのぼる。入浴の介助もある。施設に入ることは望まないが、自分だけで暮らすのが困難な高齢者が少なくない。

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 入居は昨年四月から始まった。「当時は体調を崩して入院する人が続いた」と、同福祉会の市川禮子副理事長は振り返る。

 まず、食事の充実に力を入れた。作ったことがない人、作る気力がない人が多く、夕食は市福祉公社の配食サービスを利用、昼食は週三回、ボランティアに共同調理場で作ってもらうことにした。利用は自由、入居者が実費を負担する。

 夏には入居者の健康が安定した。今、食事だけでなく、医療機関、ホームヘルパー派遣など在宅福祉サービスとの連携が、援助員を核に図られている。

 高齢者・障害者向け地域型仮設には、二つのタイプがある。二十四時間のケア体制を取り、老人ホームと在宅福祉の中間に位置するタイプが、芦屋、西宮、尼崎、宝塚の百九十一戸。平日の昼間だけ、五十戸に一、二人の援助員を配置するのが、神戸の千五百戸と西宮、芦屋の二百二十四戸。

 「基本的には自立できる人が入っているはずなのに、実際は手助けが必要な人がほとんど。共同台所でお米をといでも、水を入れると重くて部屋に運べない。震災までどうやって暮らしていたのかと思うことがある」。神戸のある地域型仮設で援助員は漏らした。

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 一般仮設住宅も含め、ボランティアや援助員らの支援で生活を続ける高齢者。「仮設後」の生活はどう保障されるのだろうか。

 兵庫県や被災市町は、三十戸に一人の援助員を配置、緊急通報システムも備えたシルバーハウジング計二千九百戸を復興住宅に導入、個室と共用スペースを組み合わせたコレクティブハウジング(共同居住型集合住宅)をモデル的に手がけることを考えている。

 しかし、芦屋のケア付き地域型仮設主任の高尾眞さんは「三十人に一人の援助員ではケアが不足する人もいる。今の仕組みでは、特別養護老人ホームしか選択肢がないが、できるだけ自分で生活したい人もいる」と指摘する。

 この四月、高尾さんらの尼崎老人福祉会が、県に出した提言は「恒久住宅にも二十四時間のケア付き高齢者・障害者向け住宅を」と求めている。

 高齢者の自立の程度や希望に沿う生活の場を、もっと幅広くつくることができないか・。県や神戸市などは、仮設後の対策につながる被災高齢者らの実態さえ、まだ把握しきっていない。

1996/5/22
 

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