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 保健室横の壁をとんとんとたたいて教頭は言った。「この裏側にあるらしいですよ」

 一部完成した神戸市立西須磨小学校の三階建て新校舎。壁の内側はぽっかりと空洞になっている。エレベーター設置に備えたスペースだが、外からはまったくわからない。設置の予定はなく、壁でふさがれている。

 「復興で新・改築されるすべての学校にエレベーターを」と、同小PTA有志二十六人は今年一月、署名活動をスタートさせた。設置の要望は震災前から続けてきたが、震災で学校は避難所になり、多くの障害者や高齢者が利用した。

 「震災でふだんからの不備がはっきりした。学校には障害児も、障害を持つ親もいる。エレベーターは障害者の人権を守るうえで必要だと思う」と署名呼び掛け人の一人、宗岡摩佐子さん(38)。

 約六千五百人の署名を添えた要望書は三月、神戸市と兵庫県に提出された。だが、市はエレベーター設置の予算化を見送り、震災で再建する小、中、高十五校にスペースだけを設けることを決めた。

 「校舎そのものの復旧のほか、耐震補強、備品の転倒防止など防災対策費もいる。厳しい財政の中で、エレベーターの設置は難しい」と市教委学校施設課。

 同課によると、設置費は一基三千・五千万円、さらに維持・補修で年百万円の経費がいる。全校設置を見据える必要があり、見通しがつかないことには一校といっても踏み切れないという。

 同小PTAは市議会にも陳情したが、文教経済委員会は四月十六日、「趣旨は分かるが、市の財政は厳しい」などを理由に、審査を打ち切った。

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 震災を教訓に兵庫県は今年三月、「福祉のまちづくり条例」を改正した。一日の乗降客五千人以上の駅舎などで新・改築時、エレベーター設置の義務付けなどを盛り込んだ。が、ここでも学校のエレベーター設置は見送りになった。

 兵庫県福祉企画室は現在、県内市町を対象に、エレベーター設置状況、校舎配置や障害児入学の見込みなどを調査中。長門利明室長は「市町には管理と財政負担が課題になる。県の助成制度の必要性も含め考えていくしかない。重要な課題で検討を続けたい」と話す。

 兵庫県教委などの調べでは、県内の公立小、中学校千二百十二校のうち、エレベーターが設置されているのは十校にすぎない。先行しているのは兵庫県宝塚市だ。

 九四年度から、小、中学校の増・改築の際、エレベーターを設置する方針を決め、震災までに二校に設置。震災で全面改築が必要な小、中学校計三校でも十二月完成を目指し工事が進んでいる。

 神戸市教委施設課は「財政は厳しいが、設置を決めた。エレベーターは、障害児がいてもいなくても必要な設備。学校は人にやさしい施設であるべきだ。震災で防災機能としても有効なことが分かった」とし、三十六の全小、中学校での設置を順次進める。

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 障害者の自立を支援する兵庫県西宮市の「メインストリーム協会」で車いすを使う佐藤聡事務局長(29)は話した。「トイレのない学校はない。エレベーターもどう考えるかだと思う。優先順位を上げ、お金をかけてほしい。私たちも『機会均等』の理念を理解してもらうよう訴えていきたい」

1996/5/31
 

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