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 「災害弱者への対応をまず考えないといけない。大震災の教訓で、できることからやってみたのです」

 千葉市にある千葉テレビ放送のスタジオ。中野康男報道部長はこう話しながら、震災後に作った緊急時用ビデオを画面にセットした。

 アナウンサーとかたわらの手話通訳者が映し出される。「緊急放送。緊急放送。ただいま地震がありました」。内容に沿って手話通訳が続く。ビデオは約二分。災害時、報道体制が整うまで、放送が流されるという。

 千葉テレビは千葉県内を放送エリアにする独立U局。昨年九月、県ろうあ団体連合会と全国初の災害協定を結んだ。協定には、「千葉テレビは手話通訳をできる限り挿入し字幕の多用を心がける」「同連合会は要請に応じ手話通訳者を派遣する」などとある。

 直後の九月十七日、観測史上最大の超大型台風12号が関東地方に接近した。特別番組は午前六時にスタートした。

 手話通訳者は同八時前に到着、アナウンサーのかたわらで、被害の危険が去った正午まで通訳を続けた。画面には二人が並び、手話通訳者が画面の隅に映る通常とは違うスタイルだった。視聴者からの苦情は一件もなかったという。

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 四月六日、兵庫・草の根ろうあ者こんだん会などでつくる全国聴覚障害者連絡会議は、テレビニュースに字幕と手話通訳を求める四万四千五百人の署名をNHKに提出した。

 「震災時、聴覚障害者は被害状況や避難勧告、救援などの情報が得られず、行動できなかったり、遅れたりした。情報が得られないという意味ではふだんも一緒。日常的に情報保障を求めていきたい」と、「こんだん会」事務局長の稲葉通太さん。

 NHKは東京の本局に「障害者向けサービス検討プロジェクト」をつくり検討中だ。瓜林裕治・NHK広報室副部長は「字幕は労力と費用、手話は費用や一般視聴者の受け止めなどが問題」などと説明した。

 「ニュースの素材はぎりぎりに入ってきて読むスピードも速く、字幕の準備や同時の設置は難しい。手話は、画面隅に入れる形式のため複雑な内容を伝えにくい」

 NHKはドラマなどで字幕放送を増やし、現在は週約十八時間、手話放送は聴覚障害者向け番組の約二時間。プロジェクトチームは、五月末をめどに結論を出す予定で、瓜林副部長は「技術は開発中だが、技術以外でできることは必ず前進させる」と話した。

 被災地で震災報道を続ける兵庫県のU局・サンテレビジョンは、災害報道のマニュアルづくりに取り組む予定で、情報の保障は検討課題にとどまっている。

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 千葉テレビの台風12号の放送では、現場中継時の手話通訳、画面に地図などを映した場合の通訳方法などの問題が浮かんだ。

 同テレビはこうした検討とともに、ふだんの放送で、手話通訳や字幕を増やすため、字幕作成の機器導入などを考えている。

 橋本春海・報道局長は「地域マスメディアの原点は、常に地域に役立つ情報を届けること。その地域には少数者もいる。これまで以上に日常的な課題にも取り組みたい」と話す。

 全国聴覚障害者連絡会議は、NHKに署名を提出した後も、署名の取り組みを継続している。「日常の情報の保障」には訴えを続けていくことが大事だと考えているからだ。

1996/5/30

 

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