連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

(8)地域社会のあり方提示 人や行政つなぐベルボックス
  • 印刷

 そのSOSが発信されたのは四月十四日の夕方、神戸市北区の八十歳の男性からだった。

 同区にあるボランティア「がんばろう!!神戸」の高根幸江さん(22)ら四人が駆け付けた時、男性の体温は三九度近く、血圧は二百を超えていた。

 「せきは出んけど、のどが痛いねん…」。一人暮らしの部屋は寒く、電気毛布を掛け、氷まくらを用意した。往診を依頼した医師の診断は咽頭炎(いんとうえん)。夜に入って、男性はおかゆを残さず食べ、体温も三六度台まで下がった。

 男性が利用したのは、「ベルボックス」と名付けた通報システムだ。一人暮らしの高齢者宅の電話に通信器を接続、ペンダント式の発信ボタンを押すと、ボランティア事務所の電話に発信先のメッセージが流れ、折り返し連絡を入れる。

 仮設住宅で孤独死が相次ぎ、昨年七月、神戸市灘区のボランティア「神戸元気村」が、最初に仮設約十世帯で運用を始めた。「がんばろう!!神戸」も呼応して導入、互いに連携し、「がんばろう」に掛かった電話も夜間は二十四時間体制の「元気村」に転送される。

 全国の寄付で賄い、高齢者らの負担はゼロ。緊急時に限らず、寂しい時やだれかと話をしたい時にも気軽にボタンを押せる。「話の題材に」とボランティアは、あらかじめ利用者の趣味や生活状況を聴き取り、パソコンに入力している。

    ◆

 一人暮らしの高齢・障害者らを対象にした緊急通報システムは、震災前から各自治体が取り組んできた。

 神戸市消防局の「ケアライン119」は、今年三月末で約二千四百台が稼働している。病気だけでなく、「相談相手がほしかった」といったケースも多い。だが、消防が設置する性格上、どうしても重い障害や病気の人が優先になる。

 消防局予防課は「誠意をもって話を聞いてあげたいが、管制業務の支障にもなる。新たに二十四時間対応できる相談員を置くことは、予算の枠などで難しい」と話す。

    ◆

 心のケアにも取り組む「ベルボックス」は、ボランティア同士の連携で計約四百台にのぼる。「がんばろう」が担当する約八十台は、仮設住宅以外にも広がっている。高根さんがかかわった男性は容体が落ち着くと、働いていた当時の話をしながら、ホットケーキを焼いてくれた。

 その後、高根さんは地元の栃木県に帰り、五月から保健婦として就職、行政の一員となっている。「今の行政は目に見える問題には手を差し伸べる。でも潜在した問題には届いていない。人が互いに気にかけることができるようなきっかけづくりを、地道にやっていきたい」と意欲を話す。

 「がんばろう」の中心は地元の主婦や会社員に移り、利用者とのふだんの電話や訪問で、自然な付き合いが生まれている。緊急時に民生委員と一緒に駆け付けたり、地元の消防署やかかりつけ医に詳しい病状を連絡する試みも始めている。

 中心メンバーで、地元在住の堀内正美さん(46)はこう話した。

 「運用を通じ地域の人と人、行政をつないでいきたい。システムはその仕掛けにすぎない。ボランティアの拠点がなくても、隣人や民生委員、消防署員らが、自然な形で地域の人たちを支えることができればいい。しかし、それまでは私たちの役割はあると思う」

1996/5/27
 

天気(9月9日)

  • 33℃
  • 27℃
  • 30%

  • 34℃
  • 24℃
  • 40%

  • 35℃
  • 28℃
  • 20%

  • 35℃
  • 26℃
  • 20%

お知らせ