六甲台遠望
<六甲台遠望(11)神戸大・橋野知子教授>貿易のかたち 一国の産業構造を映す鏡
日本の産業革命は、1880年代中頃に始まったといわれる。その前後の貿易構造を表した図は、誠に興味深い。産業革命の前は、綿糸の輸入の割合が大きかった。しかし、産業革命後は綿糸の輸入の割合は極めて小さくなり、その原料である綿花の輸入の割合が拡大した。輸入していた製品を国産化する、いわゆる輸入代替の典型である。日本の在来の綿花は繊維が短く、西洋式の機械紡績機には不向きだったから、輸入綿花に取って代わられた。近代紡績業を確立して、経済的な独立を果たさなければならない状況下で、国内の綿作をつぶさなければならないと気付いたときの当事者の心中は、いかばかりだったかと考えるたびに胸が痛くなる。経済史は、産業構造の変化の過酷な歴史でもある。
1月20日付神戸新聞朝刊1、2面で日本の貿易赤字が過去最大の19・9兆円を記録したという記事を読み、今、日本経済がさまざまな構造変化の中にあることを実感した。しかも見出しは、「日本経済 弱まる稼ぐ力」である。危機感を感じずにはいられない。円安は輸出産業の追い風になると思われたが、コロナ禍で部品調達難も加わり「誤算の1年」となったと論じられている。また、企業が進めてきたグローバルなサプライチェーンが前提としているのが、世界の平和に他ならないことを私たちはもっと強く自覚したい。
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