六甲台遠望
<六甲台遠望(2)神戸大・橋野知子教授>市場の失敗を超えて 安全を犠牲にしてはならない
尼崎の脱線事故から、今年で17年。時が流れても、犠牲者や家族の方たちの傷が癒えることは決してない、と各種メディアを見て強く感じる。むしろその傷は、一瞬にして幸せな日常がなぜ奪われてしまったのか、という疑問とやるせない思いのために、深く、そして永く心を疼(うず)く。私自身あの時は、あの電車に乗っているゼミ生がいなかったか、必死で調べていた。日本の鉄道の安全神話が崩れたことを思い知らされた。
経済学において、また私たちの生活において「競争」は大切だ。競い合う企業があってこそ、商品やサービスの価格は下がり、消費者はその恩恵を受ける。また技術革新により、新製品や新しいサービスが生まれる。無意識のままこの恩恵を受けている商品やサービスが、私たちの周りにいかに多いことか。しかし、企業間の競争が熾烈(しれつ)を極めたときに、消費者が犠牲になるようなことは決してあってはならない。特に人間が食べるものや乗り物においては。交通サービスを利用して移動する我々にとって、時刻表通りであることは重要だ。しかし、安全管理を怠ってまで提供されるサービスを好む人はいないだろう。スピードのために、安全が犠牲になってはならない。
この記事は会員限定です。新聞購読者は会員登録だけで続きをお読みいただけます。