ひょうご経済プラスTOP 連載一覧 コラム けいざいeyes ビジネスマン必読! 指揮者の組織論 (30)機能的な活動のための許容と制限

ビジネスマン必読! 指揮者の組織論

(30)機能的な活動のための許容と制限

2020.10.28
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 つい先日、総合病院に入院して大きな手術を受けました。術後の経過は順調で、少しずつ社会復帰に向かっています。その影響で、指揮をすることが困難な状態が長く続いていますが、医療従事者に感謝する気持ちは一段と高まりました。看護師を集団として見ると、その動きは実に組織的です。役割分担は明確におこなわれているはずですが、場面に応じて臨機応変に対応することができるのは、与えられた役割だけではなく、幅広いスキルをひとりひとりが身につけているからでしょう。そのようすは、まるでオーケストラのようでした。

 オーケストラを組織としてみると、指揮者を頂点として、各楽器パートに首席奏者がおり、彼らは各パートの奏者を率いています。指揮者に意見を求められた時には、首席奏者が意見をまとめてパートとしての見解を述べます。パートを別の視点から細かくみると、主に管楽器パートには「アシ(アシスタント)」という存在があります。これは、首席奏者が独奏する部分が多い作品を演奏する時、首席奏者が疲労してしまわないように、大音量の部分で演奏に加わって支える役割です。アシは未熟な奏者なのかというと、必ずしもそうではありません。首席奏者に独奏のアドバイスをしたりすることもあり、首席奏者が安心して活躍できるように支えるのですから、音楽的経験を十分に積んだ人が首席奏者を育てるという機能も果たします。弦楽器奏者でも、たとえばヴァイオリンパートでみてみると、前方に座っている人が「上手い」というわけではありません。若手を育てるために、あえて熟練の奏者が後方の若手と並んで座ることも珍しくないのです。また、指揮者の側にもトレーナーという人がいて、指揮者の目指す音楽を理解したうえで、音の出だしを合わせるとか、和音を確認するとか、指揮者が音楽的な合奏練習ができるように、事前にオーケストラの機能的な側面の練習をします。このような現場での経験はたいへん貴重ですので、こうして現場で経験を積んだトレーナーは、やがて指揮者としてデビューすることになります。このようにしてオーケストラは、トレーナーのトレーニングを受ける一方で、指揮者を育てる機能も果たします。

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