ひょうご経済プラスTOP 連載一覧 コラム けいざいeyes ビジネスマン必読! 指揮者の組織論 (24)指揮者の資質とは

ビジネスマン必読! 指揮者の組織論

(24)指揮者の資質とは

2020.03.25
  • 印刷

 指揮を依頼されるときに、よく「何度も指揮して慣れている曲は、準備もほとんどいらないでしょう」と言われます。たしかに、名曲といわれる作品を指揮する機会は多く、スコア(指揮者用の楽譜)を細部までよく覚えています。しかし、慣れているからといって油断すると、指揮者にとって満足な演奏をオーケストラから引き出すことは絶対にできません。私の場合、指揮を依頼されて最初にするのは、新しいスコアを入手することです。以前に使ったスコアはすべて手元に残していますが、再びそれを使うことはありません。もう一度スコアを読み込み、音楽と向かい合います。その時にはもちろん、これまで勉強したことや、演奏会での経験が生きてくるのですが、慣れはろくな結果をもたらさないのです。

 指揮をするということは、「聴く」ことと「導く」ことを瞬時に重ねていく行為です。自分の求める音楽を明確にもっておくこととともに、心に窓を一つあけておいて、音で演奏者が示す意見を聞く余裕が必要です。指揮者のやり方が、求める音楽を引き出す最善の方法ではないこともあるのです。独裁的になって自身の部屋に閉じこもることなく、窓を一つ開けておく心の余裕を持っておくと、演奏者は余裕を持って自発的に動くことができます。指揮者にはスコアの徹底的な勉強と経験、それに演奏者との良好な人間関係が絶対的に必要です。しかし、指揮者によっては、窓を開けておく心の余裕がなく、演奏者の助言を非難だと思い込む人もいます。指揮者が助言に耳を貸さないのは、オーケストラにも指揮者自身にも、そして何より、聴衆にとって悲劇です。もちろん、すべての意見に耳を貸していたのでは、いったい指揮者は何をしているんだ、ということになってしまいますから、そのさじ加減もまた難しいところです。おそらく、心に窓を一つ開けておくことができる指揮者は、自分が準備を怠らずにきちんとスコアを勉強したという自負があるのだと思います。

この記事は会員限定会員限定です。新聞購読者は会員登録だけで続きをお読みいただけます。