ビジネスマン必読! 指揮者の組織論
(29)新しい生活様式について-相手にどう伝えるか-
コロナ禍で「新しい生活様式」という言葉が巷に溢れています。リモートによる仕事の推奨や互いの距離を十分にとるソーシャル・ディスタンスに留意すること、などが「新しい生活様式」であると考えられているようですが、わたしはそれ以上に大きな変化があると思います。それは、対人関係における心の変化です。
コロナ禍の状況では、皆、多かれ少なかれ心にストレスを感じながら生活しています。音楽家も、単に演奏活動ができなくなった、という表面的な変化だけではありません。ひとつの具体例をあげましょう。ある演奏者の演奏がどうしてもうまくいかない場合、これまでなら指揮者は完成度の低さを明確に指摘していました。しかし、コロナ禍の下での練習では、「精神的に参っているのかもしれない」という思いが先に立ちますから、「無理はしなくていいですよ」と発言するにとどめるようになりました。依頼した仕事が完成していなくても、仮に、仮にですよ、居眠りしている演奏者がいたとしても、コロナの影響ではないかと考えて、心遣いをしながら対応する必要があります。(本当は元気だけれど)さぼっていたとか、気が緩んでいただけ、という場合であったとしても、強く指摘することはなくなりましたし、逆にコロナ禍を口実にしてさぼる人もいるかもしれません。もしかすると、相手に対する気遣いとしては、本来そうあるべきだったのかもしれませんが、このように対応することは、配慮する側にとって精神的なストレスになります。演奏家仲間同士でも友人同士でも、互いに言いたいことがこれまでのようにストレートに伝えられず、その結果として、個々の孤独感や疎外感につながっているかもしれません。しかし、「新しい」というよりも、「本来の」人と人とのつながりは、互いに配慮したあり方だったはずなのですから、その意味で現在の状況は、本来の姿に立ち戻るきっかけになるのでしょう。
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