ビジネスマン必読! 指揮者の組織論
(28)邪魔をしない勇気
最近はコロナ禍の影響で、演奏会の開催が困難な状況にあります。少しずつ再開され始めてはいますが、練習やリハーサルの時間や場所がかなり制限されるために、演奏会本番にどのように向かうのかについて、これまで以上に真剣に集中して考えなければならなくなっています。指揮者の仕事は、演奏会本番までの仕事と本番での仕事に切り分けることができます。本番までの仕事としては、演奏する作品の構造や作曲者の意図を読み解く「楽曲分析」と、それをどのように表現するかを思考して演奏者に伝える「演奏解釈」があります。練習では、これらのことを指揮棒で端的に伝えます。口であれこれと説明していると、演奏者の演奏意欲は萎えてしまいます。講釈を聞くために来たのではないのだから、早く音を出そう、というわけですから、指揮者のバトンテクニックはとても重要です。こうして演奏会までに、目的とする音楽を演奏者と明確に共有し、それを完全なものにするのです。
指揮者のバトンテクニックの中でもっとも重要なもののひとつは、指揮棒が上に上がった時に一瞬の「間」をとることです。ボールが跳ねたときのことを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。ボールは跳ね上がると上で一瞬止まって、それから動きの向きを反転させて落ちてきます。これを指揮棒で再現すると、ボールが次にいつ落ちるか、つまり次の拍の予測が可能になるのです。また、次に大切な動きが始まるときには、次の音の出だしを明確に示すために、指揮棒の動きを意図的に完全に止めることもあります。これらの音楽表現上必要な「間」をとる指揮棒の動きは、決して大きなものであってはいけません。あくまでも自然に。
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