ひょうご経済プラスTOP 連載一覧 コラム けいざいeyes ビジネスマン必読! 指揮者の組織論 (18)期待する、期待される、ということについて

ビジネスマン必読! 指揮者の組織論

(18)期待する、期待される、ということについて

2019.08.21
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 わたしは若いころに、お客さんが数名というオーケストラの演奏会を指揮した経験があります。相当な練習を積んで臨んだ演奏会でしたから、ホールにいっぱいのお客さんが入って、演奏が終わると「ブラボー!」の声が会場中に響き渡る、という光景を思い描いていました。ところが、開場時刻になってもお客さんは数名しかいません。おかしいな、少し開演時刻を遅らせてみよう、などと運営と相談しました。自分は努力したのだから、お客さんは来るものだ、と思い込んでいたのです。結局というか、やはりというか、15分待っても一人も増えず、数名のお客さんで演奏会を開演しました。開演当時の私は、おそらく、こんなに期待されていないものかと、ふてくされていたと思います。それは、オーケストラの若いメンバーたちも同じだったのではないかと思います。

 ところが、演奏が始まると、音がいつもの練習の時と明らかに違うのです。音楽が生き生きとしているというか、自然にうねって進行するのです。わたしはお客さんに背を向けて指揮をしているのでわからなかったのですが、前方のお客さん数名が、目に涙をいっぱい貯めて聴いてくださっていたらしいのです。わたしは1曲目で、自分の傲慢な思い込みを恥じました。自分はすごい人間で、周囲もそう評価して、期待してくれているはずだと勝手に思い込み、わざわざ会場に足を運んでくださったお客さんに対して失礼な姿勢で音楽に向かっていたのですから。2曲目からは、今でも記憶に残るような名演でした。お客さんは、精いっぱいの拍手をくださいました。決して忘れられない光景です。

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