ひょうご経済プラスTOP 連載一覧 コラム けいざいeyes ビジネスマン必読! 指揮者の組織論 (16)わかりやすい指揮とその評価とは?

ビジネスマン必読! 指揮者の組織論

(16)わかりやすい指揮とその評価とは?

2019.06.12
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 私の指揮の先生は、「魔法の棒を持つ」と称賛された指揮者でした。ロシアで高く評価され、バレエやオペラの指揮で名声を得ました。先生にいつも指摘されたのは、「振りすぎないこと」でした。つまり、メトロノームのように拍子をとったり、大きく棒を振ったり、さまざまな楽器の入るタイミングをあれこれ指示したりしすぎると、かえって演奏者の邪魔になる、というわけです。特に、音楽が有機的に進んでいるときには、指揮が音楽の流れを停滞させることがあり、これはプロであろうとアマチュアであろうと変わりません。必要最低限の動きで、指揮者の意図を明確に伝える指揮が「よい指揮」とされ、そのためには、相当なテクニックが必要です。

 ここで、「よい指揮」とはどのようなものをいうのでしょうか。たとえば、拍子感を大切にしてコンパクトに指揮すると、演奏者は演奏しやすいのですが、音楽もコンパクトで表現の小さなものになってしまいがちです。このような指揮は、1日や2日のリハーサルで本番を迎えるような客演指揮の場合に有効です。一方、演奏者との信頼関係に基づいて、演奏者にゆだねるように指揮すると、音楽表現も大きくなりますが、細かい指示を出さないので、指揮者の思うように演奏者が演奏してくれるかどうか心配です。オーケストラの常任指揮者であれば、比較的このような指揮法が使えそうです。どちらが「よい指揮」といえるのかの答えは、指揮者と演奏者との間にどのくらいの信頼関係が築かれているのかとか、モーツアルトのディベルティメントは軽くブラームスは重厚になど、演奏する音楽がどのような特性をもっているかによって異なるでしょう。理想的には、事前に拍子感や表現方法について十分な練習を積んでおいて、本番ではあれこれ細かく指示を出して演奏者を縛ることなく、自由に表現してもらうことでしょう。

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