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ビジネスマン必読! 指揮者の組織論

(9)いつも生き生きとしていること

2018.09.26
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 「ことだま(言霊)」という言葉をご存知でしょうか。辞書には「古代日本で、言葉に宿っていると信じられていた不思議な力、発した言葉どおりの結果を現す力があるとされた(大辞泉)」とあります。わたしは現代に生きていますが、日ごろオーケストラの指揮をする際に、この「言霊」を活かすように心がけています。指揮者は、自分では音を出さないのに、作り上げたい音楽の高い理想をもっているという、不思議な職業です。しかし考えてみると、学校の先生だって、生徒の代わりに自分で試験を受けてやることはできないのに、生徒をこう育てたいという理想は持っているでしょう。企業家も、社員に働いてもらってこその業績です。こう考えると、社会のいたるところに、その分野の「指揮者」がいるといえます。前に立つ指揮者が発する言葉は、大きな影響力をもちます。内容はもちろんですが、言葉そのものにも力があります。たとえば、不用意に「いやだ」、「しんどい」、「だるい」、などといってため息をついていると、そんなに体調が悪いわけではないのに「言霊」によって、本当に気分が滅入ってしまうといった経験はないでしょうか。こんなときには、それを聞かされた相手も滅入ってしまいます。ですから、言葉を慎重に選ぶ必要があります。

 指揮者がオーケストラの前に立つときには、いつも活力に満ちていなければなりません。ゲーテの言葉を借りると、「生き生きとしている」ことです。陰気な表情をしていたり集中力が欠けた素振りをしていたりすると、オーケストラからよい音楽を引き出すことはできません。同じ理由から、演奏する曲目によっても、表情や身振りを変えます。これは指揮者の個性にもよりますが、私は意図的に指揮法に演劇的な要素を取り入れます。明るく陽気な音楽を演奏するときには、楽しそうな表情や軽い身のこなしをしますし、苦しく辛い内容をもつ音楽の場合には、苦しそうに身もだえるような仕草や表情が自然と出てくるものです。指揮者の視線や一挙手一投足はオーケストラの演奏者に伝わり、音楽表現に大きな影響を与えます。みなさんも学生の頃、学校の先生の表情から、「どうして先生は、今日あんなに不機嫌なんだろう、家庭で何かあったのかな」などと感じたことがあったでしょう。それは、生徒であったあなたが、先生の表情や身振りから、さまざまな思いを感じ取っていたのです。その結果、先生の機嫌が気になって集中して授業を受けることができず、学習への意欲を失うことにつながっていたかもしれません。先生に叱られるときでも、先生が感情に任せて「怒っている」のか、自分のことを考えて「叱っている」のかを敏感に感じ取っていたはずです。

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