投資のプロが斬る!これでいいのか日本経済
(5)物価の上昇=通貨価値の下落
最近、物の値段が上がっているように感じることがある。少子高齢化による働き手不足が原因で、労働コストが上がっているからであろうか。特に建設現場での人手不足は深刻なようである。物の値段とは、即ち通貨「円」の価値であり、両者は表裏一体の関係にある。過去25年間、円の価値は緩やかに上昇してきた。四半世紀の長きにわたりじわじわと物価が下落したからであるが、その主たる原因となった経済現象は、いわゆるバブルの崩壊とIT革命であろう。バブル経済現象は、1987年ごろから1990年末ごろまでの4年間に、土地の価格が3、4倍に暴騰したことに表現される。このことは、当時の経済成長率から推計しても、20年から25年間の需要を先食いしたと筆者は考えている。また、1990年代半ばから、その影響が社会現象として現れてきたのが、いわゆるIT革命である。
一つの具体例を挙げてみたい。「焼き増ししたことがありますか。」と若い人に聞いたとき、「あります」と答えるのはおおむね30代半ば以上の年齢、30歳前後では「聞いたことはありますが、やったことはありません」と答え、20代前半では「それは何ですか」と、もはや死語になっている。これは、筆者の会社で聞いてみたところの話ではあるが、おおむね社会一般的な状況ではないだろうか。それ以前は、まずカメラを買い(コンパクトカメラでも2万円前後した)、そしてフィルムを買い、写真を撮ったフィルムを現像に出し、写っている人全員に必要枚数を個別に尋ね、その枚数の合計をそれぞれ焼き増しし、遠方の方には送り状を添えて郵送していた。ところが、2000年前後より携帯電話にカメラ機能が装備され、その後の急展開はご記憶の通りである。つまり、写真にかけていた機器代金、サービス料、郵送料、それらに費やした時間がほぼゼロになったのだ。これは革命と呼べる。この影響を受け、世界最大のフィルムメーカー、イーストマンコダックは倒産した。これは一例にすぎないが、われわれの生活の中で同様の変化がここかしこで起こっている。物やサービスの価格が下落するということは、通貨「円」の価値が上昇することと同義なので、バブルの崩壊とIT革命がもたらした経済への影響は、想像を絶する円(現金)の価値の上昇であったとも言える。
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