神戸をめぐる映画のお話をまたひとつ。これまで神戸の街の素敵さを生かした作品ばかりをとりあげてきましたが、神戸をめぐる悲痛な記憶、阪神・淡路大震災についてふれた映画にも忘れがたいものがあります。真っ先に思い出すのは、2006年公開の万田邦敏監督「ありがとう」です。
その「ありがとう」の中で倒壊家屋の下敷きになった被災者の「手」だけが外に見えているシーンがありました。熱血温厚な消防団員の主人公(赤井英和)は、その「手」が目前にあるのに、火の手が回ってどうにも救助できないという無念に打ちひしがれます。未曽有の被害を受けた長田区をオープンセットとCGで再現して、本格的に当時を再現しようと試みたこの作品ですが、この壮絶な「手」のイメージによって単に震災の大状況の絵解きに終わらず、胸に刺さる映画的な表現が実っていました。
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