神戸を舞台にした映画の話をまたひとつ。最近国際的に高い評価を得た作品で、神戸を舞台にしていたものといえば、ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を獲得した2020年の黒沢清監督「スパイの妻」。舞台は太平洋戦争直前の、1940年の神戸です。
高橋一生扮(ふん)する貿易会社の社長と、蒼井優扮するその妻は、いかにも神戸のセレブリティらしいハイカラな洋館で幸福に暮らしていました。その優雅さのひとつの象徴というのが夫妻の趣味で、なんと妻が怪盗に扮するにわか劇映画を夫が撮影して制作している。実はホームムービーの普及は思いのほか早く、22(大正11)年頃から後年の8ミリとは違う9・5ミリというフィルムが売り出され、この映画にも出てくるフランスのパテベビーのカメラを、まさに本作の高橋一生のような貿易商が日本にもたらし、戦前の贅沢(ぜいたく)な娯楽品となりました。
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