「こんな不公平がありますか。神戸市への信頼が根底から崩れてしまう」
神戸市灘区、JR六甲道駅南の再開発地区にある借上住宅「ウェルブ六甲道6番街2番館」に住む根津良一さん(66)は声を荒らげる。普段は口数の少ない表具屋の店主である。
神戸市内の借上住宅は107団地3709戸(昨年12月末時点)。だが、六甲道の2棟56戸はほかと事情が異なるという。どういうことか。
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阪神・淡路大震災で、約半数の住宅が全半壊した同地区を神戸市は「東部副都心」と位置付け、大規模な再開発事業に着手した。
2004年に完成し、今は芝生が広がる防災公園を14棟の高層マンションや商業ビルが囲む。戦前の古い町並みは消え、大半は震災後、大阪や阪神間から移り住んだ新住民が暮らす。
この町に家族4人で暮らしていた根津さんは木造2階建ての借家が全壊。近くの分譲マンションが半壊した両親も区分所有権を神戸市に売って再開発に協力し、ウェルブ六甲道に移った。いわゆる「受け皿住宅」である。
神戸市はこの地区に3棟の復興住宅を供給した。1棟は市が建設し、2棟は都市再生機構(UR)から借り上げた。入居時に被災者の意向は反映されず、震災前の住所を元に神戸市が振り分けた。桜口町5丁目は市営住宅へ、備後町4、5丁目は借上住宅へ。そして今、借上住宅に振り分けられた人だけが退去を迫られている。
「私たちに選択権はなかった。民間の不動産取引なら重要事項説明に当たることを再開発の計画段階で知っていたら、まちづくり協議会は紛糾し、再開発は迷走しただろう」
まち協役員だった根津さんは憤る。
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昨年12月の神戸市議会都市消防委員会。「原則論」を前面に出し、住み替えを求める神戸市に対し、与野党の区別なく、複数の市議が追及した。
「20年先も住めるプランAと20年後に退去が必要なプランBがあったとき、Bを選ぶ人がいるだろうか」
「ほかの借上住宅と明らかに条件が異なる。特別な配慮が必要だ」
神戸市が「西部副都心」と位置付けたJR新長田駅南の再開発地区にも、同様の借上住宅がある。
神戸市は昨年末の市会審議を踏まえ、1月中に新たな方針を示すという。
(木村信行)
2014/1/21