借上復興住宅の返還で入居者への対応が最も厳しいのが西宮市だ。
「そもそも西宮市は、要介護3以上の高齢者や重度障害者でも『希望の空き室が見つかるまで5年間の猶予』を認めただけ。継続入居は一切認めず、年齢基準もないんです」
西宮市の入居者連絡会長を務める松田康雄さん(66)は疑問を投げ掛ける。「90歳以上や認知症の高齢者も転居におびえています。現状を見て、判断してほしい」
松田さんが暮らす都市再生機構(UR)の借上住宅「ルネシティ西宮津門2号棟」を訪ねた。
入居者は96人。65歳以上の高齢化率は7割。県営住宅なら継続入居が可能な80歳以上が23人いる。
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「今の生活で精いっぱい。転居? どこにもよう行きません」
独り暮らしの谷幸世(さちよ)さん(90)は人なつっこい笑顔で話す。
地域の老人会長を2年前、引退した。6年前に股関節の手術を受け、足腰は弱くなったが、手押し車で1キロ先のスーパーへ行く。介護認定は「要支援1」。自力で暮らせるのも、茶飲み話をして、年1回のバス旅行を心待ちにできる近所付き合いがあるからだ。
西宮市役所の近くにあった文化住宅は震災で半壊した。市の勧めで借上住宅に入居したのは73歳。20年後に退去の必要があると聞いた覚えはない。
週2回、デイサービスで風呂に入れてもらう。整形外科、内科、眼科、歯科に通い、1日に12種類の薬を飲む。8畳間を行ったり来たりして、足腰を鍛える。たまに、同じ棟の80代と90代の女性と愚痴を言い合う。
「ほんまに出ていかなあかんのやろか」「転居先で転んで骨折でもしたら、もう歩けんくなるのに…」
2時間ほど話して、午後8時には床に就く。眠れない夜が増えた。
穏やかで規則正しい生活が根底から揺らいでいる。
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西宮市の借上住宅入居者は272世帯。同市は昨年12月、配慮が必要な高齢者に福祉や医療の専門家から助言をもらい、安心して転居できる方策を探る「アドバイザー会議」の発足を決めた。だが、岡筋政之住宅部長はいう。
「西宮は近くに転居可能な市営住宅が多く、神戸市や兵庫県とは条件が違う。基本方針を変えるつもりはない」(木村信行)
2014/1/20