2013年3月。兵庫県議会予算特別委員会でこんな議論が交わされた。
共産県議 入居者が転居しなかった場合、強制的に退去させるのか
住宅管理課長 住み替え支援ですでに転居した人もいる。公平性の観点から、明け渡し請求後、最終的には強制執行もあり得ます
入居者の不安が一気に高まった。
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「行政の返還請求は、そもそも違法の可能性がある」。自由法曹団兵庫県支部の吉田維一(ただいち)弁護士は、法律の面から問題点を指摘する。
借上住宅をめぐっては、主に二つの法律が関係している。公営住宅法と借地借家法である。「ちょっと複雑ですが、大事なポイントなので、しっかり理解してほしい」。吉田弁護士はそう言って解説を始めた。
公営住宅法は32条1項で借上期間が満了したとき、事業主体は、入居者に明け渡しを請求することができると規定する。兵庫県や神戸市などが退去を求める根拠だ。
しかし、同法25条2項はこうも規定する。事業主体の長は、入居者を決定した際、借上期間の満了時に公営住宅を明け渡さなければならない旨を通知しなければならない
2項目とも震災翌年、借上住宅を可能にした法改正で加えられた。国の法律解説には「事前通知により、入居者が退去時期を予想できるよう配慮が必要」と書かれている。
ポイントは、入居者が契約時に20年後の事態を予想できたか、どうか。
行政は「募集要項に明示した」とする。だが20年後は新たな契約が必要と書いてあるが、明け渡し義務には触れていない。
さらに複雑な問題がある。神戸市は借上住宅の一部を同法の改正前に契約した。「だから、事前通知の必要がないところもある」。すると、入居時の適用法は住人の権利を強く保護する借地借家法になるが、退去を求める法的根拠はあくまで公営住宅法32条という。二つの法律を使い分けているのだ。
一方、兵庫県は契約時に添えたしおりに契約満了時は明け渡してもらいますと書いていた。「だから法的な不備はない」と、県住宅管理課の埴岡昭平主幹は主張する。だが、それは契約書類ではない。
入居者に迫る返還請求。その根拠となる法解釈で見解は分かれている。
(木村信行)
2014/1/16