不可解な公文書がある。
神戸市営住宅入居許可書。ピーク時で約4千戸に上った借上住宅の当選者に神戸市が発行したものだ。
2010年夏、市が入居者に返還を求める「お知らせ」を送った直後、慌てた入居者が契約書類を確認した。すると、許可書に借上期間の項目がなかったり、空欄になったままだったりする書類が多数、混じっていたのだ。
「どういうことか」。阪神・淡路大震災の復興課題を検証する民間団体「兵庫県震災復興研究センター」の出口俊一事務局長が疑問を抱き、神戸市に情報公開請求した。こんな結果が出た。
期限の記載あり 3149件
記載なし 432件
兵庫県の書類も確認すると、全ての許可書に期限の項目自体がなかった。西宮市も同様だった。
神戸市の矢田立郎市長(当時)は11年3月の市議会予算特別委員会で「震災のどさくさで混乱があった」と不備を認めている。
「正直、驚いた。契約を根拠に退去を迫る行政自身が、契約をないがしろにしていたのだから。少なくとも、入居許可書に期限の記載のない人には退去を求められないはずだ」と出口さんは指摘する。
09年12月。神戸市の重要な住宅政策を民間の有識者が議論する「すまい審議会」の議事録にこんなやりとりが残っていた。すでに震災から14年が過ぎている。
部会長 (20年の借上期間を)入居者は契約時にご存じなんですよね
住宅部長 ご存じないと思います
部会長 契約時に期間を知らせるのは当然、必要なことではないですか
住宅管理課長 募集の中で、この住宅は20年の借り上げですよ、とはお知らせしています。ただ、出てくださいとは言っておりません
当時、住宅部長だった中川欣哉西区長は振り返る。
「市は当初から退去方針を決めていたわけではなく、あのころはまだ政策の形成過程だった。だから、借上期間を延長する可能性もあった」
出口さんは話す。
「神戸市は、あたかも『20年後の返還は契約時から決まっていた。だから退去は当然』という姿勢で市民に説明しているが、実は神戸市自身、課題を先送りしていたんです」
いつ返還にかじを切ったのか。
(木村信行)
2014/1/13