当初は「原則、入居者全員の住み替え」を打ち出していた兵庫県や神戸市だが、入居者の不安や反発を受け、方針の転換を図り始めた。
兵庫県は2012年、福祉や住宅の専門家ら14人による「借上県営住宅活用検討協議会」を発足。神戸市も翌年、同様の懇談会を設け、昨春「継続入居の基準」を相次いで打ち出した。
その結果、要介護3以上▽重度障害者-の継続入居を無条件で認めた点は共通するが、年齢で大きな差が出た。
兵庫県=原則80歳以上
神戸市=85歳以上
西宮市=年齢基準なし
さらに兵庫県は、基準に該当しない人でも、(1)地域との関わり(2)身体状況-などを考慮し、第三者による「判定委員会」が認めれば継続入居を認める方針を明らかにした。入居者の少ない宝塚市(30戸)と伊丹市(42戸)は全員の継続を認める方針だ。
なぜ、対応に違いが生じたのか。神戸市と兵庫県の議事録を読むと、審議の“温度差”が浮かび上がる。
神戸市の委員の発言
「若い人の失業も多いし、母子家庭もいる中、なぜ被災者かつ高齢者なら手厚くできるのか。税金の使い方がおかしいのではないかと指摘されたときに、耐えられる視野が必要だ」
「入居者の希望を踏まえれば、不合理や不公平感が拡大する側面も見逃せない」
兵庫県の委員の発言
「80歳を過ぎると、現状維持が精いっぱい。それでよしとしなければならない」
「一部の住み替え困難者の継続入居を可能にするというのが、この協議会の議論の出発点だ」
◎ ◎
兵庫県の検討協議会委員として、「判定委員会」の設置を求めた県医師会常任理事の豊田俊医師(65)は指摘する。今も高齢者を中心に500人近い患者を診ているという。
「実際は、要介護3以下の人ほど地域に支えられて生きている。こうした人に望まない転居を強いるリスクは大きく、基準から漏れる人をどう救うかが最も大切だ」。そして続ける。
「自己責任論が高まり、社会が弱者を支える力を失っている。借上問題で問われているのは復興施策というより福祉行政の在り方なんです。男性の平均寿命は79歳。それを超える線引きはいくらなんでも…」
(木村信行)
2014/1/19