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(8)終わりに 少しでも知ってほしい
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支え合って歩む。これからも
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支え合って歩む。これからも

支え合って歩む。これからも

支え合って歩む。これからも

 連載で取り上げた三人の今を紹介する。

 自宅でピアノの下敷きになった城戸洋子(24)。七月末、神戸ハーバーランドで母の美智子(51)と買い物を楽しんだ。

 震災後、失われていたおしゃれへの興味が、最近、少しずつ戻ってきた。

 雑貨屋で銀色のブレスレットを見つけた。「わー、かわいー」。二つを買い、すぐに左の手首につけてみた。

 ちりばめられたピンクとブルーのビーズが夏の日差しを反射した。

 倒壊した阪神高速からトラックとともに転落した今井敏行(44)=仮名。五日、北九州へ一泊二日の家族旅行に出掛けた。目的地はテーマパークのスペースワールド。今井と妻晴美(39)=仮名=が十三年前、新婚旅行に選んだ場所だ。

 そこに一人息子を連れて行く。「やっと、それだけの心のゆとりが出てきたということかな」

 がれきの中から救出された松田日出男(35)。妻の明子(27)と十二日から二泊三日で、丹波のキャンプ場に行く。車いすバスケットボールのチームの後輩とバーベキューや釣りを楽しむ。

 最初、車いすでのキャンプはできないと思い込んでいた。

 「次はバイクに挑戦したい」と日出男。

    ◆

 連載で紹介できなかった人もいる。

 施設で暮らす恵=仮名=は知的障害がある。震災で自宅の下敷きになった。下肢に障害が残り、車いすで生活する。

 震災前。勤めが終われば商店街で買い物をし、自炊した。週一回、なじみの店でラーメンを食べた。多くの人に支えられて実現していた下町の一人暮らしは、アパートとともに崩壊した。

 二度の取材で計約六時間にわたって、被災体験を語ってくれた。三度目に会ったとき、険しい表情で掲載を断られた。

 「震災をこれ以上思い出したくない」

 どれほどつらく、孤独だったのか。その気持ちに寄り添えなかった。

 和子=仮名=は、自宅が全壊。下半身まひになり、母親を亡くした。

 震災後、結婚し、新しい仕事も得た。だが、体験を語る和子の複雑な表情から、私たちは掲載を見送ることを決めた。

 「ぎりぎりのところにいるのじゃないかと思う時がある。一歩出ると、崩れてしまうのかもしれない」。明るい笑顔と言葉の落差に戸惑った。

    ◆

 震災で障害を受けた人は何人いるのか。兵庫県や神戸市など関係機関を取材したが、全体像は把握できなかった。さらに担当者に言われた。

 「障害の原因が何であろうと、公的な支援策は同じです」

 震災でけがを負うと同時に家を失い、家族を失い、住み慣れた地域を失った人がいる。孤独感を抱えたままの人がいる。担当者の言葉は、私たちの心のどこかで引っ掛かったままだ。

    ◆

 最後に、洋子の母美智子の言葉を伝えたい。

 「この十年、震災で障害者になった人への対応はすっぽり抜け落ちていた。少しでもいい。洋子のような存在を知ってほしいんです」(敬称略)

(記事・網麻子、木村信行、写真・田中靖浩、峰大二郎)

=おわり=

2004/8/8
 

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