終末期医療の講演を医師や市民にする機会が多くある。そこでよくする質問がある。それは「死後の世界はあるのか、無いのか」である。私は「無い派」であるが、世間はどうなのだろう、という単純な動機で聞いてまわってきた。世間ではよく「あの世から見守ってください」とか「あの世で待っていてください」という言葉が使われるので、大半の人は「ある派」だろうな、と勝手に思っていた。果たしてアンケート結果は医師も市民も同じで、ある派と無い派はほぼ同数である。これは全国どこで聞いても同じ結果になる。もちろん僕の話を聞く人という点でバイアスがかかっているが、僕にとっては意外な結果だ。
医者になって40年近くになる。2500人を看取(みと)ってきた。死亡診断書を2500通書いたということだ。臨終に接していつも思うのは、旅立ったばかりの目の前にいる人は今、僕をどこから見ているのか、それとも見ていないのかだ。この人の魂はこれからどこに行くのか、どこにも行かないのか。永遠に答えが出ない疑問であることは分かっていても往診の帰り道で必ず考えてしまう。
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