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 阪神・淡路大震災のあと仮設住宅が建ち始めた1995年6月、僕は開業した。病院を飛び出し町医者に転身したのだ。人生初の往診は仮設住宅に入ったばかりの高齢の男性だった。震災を契機に急速に弱ったという。しかし病院の外来で見ていたお顔と、家で見た表情は全く違っていた。衰弱していても病院の外来と違ってリラックスした自然な笑顔だった。開業当初、外来患者は1日数人程度だったので、往診の依頼が舞い込むとすぐに駆け付けていた。

 家に行くとその人の生活がまる見えだ。その人がどんな人なのか、そして家族関係までが一目瞭然で分かる。いつもしっかりお洒落(しゃれ)して来られる人の家がゴミ屋敷で踏み入れることができなかったり、ヨレヨレの服で来る人が綺麗(きれい)な大邸宅に住んでいたりで予想を裏切られることが続いた。家での生活ぶりを見るのと見ないのとでは病気の理解度が全く違うことに気が付いた。医師になって12年目だった。当時は、まだ在宅医療という言葉も、介護保険もなく、家族介護だけの実にのどかな時代だった。もともと生活も見られる医者になりたかったので往診依頼は、町医者になった自分へのご褒美のように感じた。

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2023/2/15
 

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