「梅の香を君によそへて見るからに花のをり知る身ともなるかな」(『和泉式部続集』)。梅の季節。梅の香りをあなたに結びつけて見るものだから、花の咲く時期に気づく私になってしまった…。平安時代には香りを衣服に薫(た)きしめる習慣があり、さまざまな薫衣香(くのえこう)を楽しんでいた。その香りから恋人を連想したという歌である。当時のコミュニケーションで、匂いはとても大切だったのだろう。
嗅覚は、五感のなかでも意識にのぼりにくい感覚だ。人や場所の匂いはそれぞれ違うが、それらを意識しながら生活することはあまりない。しかし、匂い(つまりさまざまな化学物質)の情報は脳にいつも届いている。だから、鼻が詰まって嗅覚が効かなくなると、まるで無味乾燥な世界にいるように感じられてしまう。
この記事は会員限定です。新聞購読者は会員登録だけで続きをお読みいただけます。