カンカン、コツコツ、ガシガシ。これは、全盲の僕が白杖(はくじょう)を使って道を歩く際の音である。ぼうっと歩いていると、時々ガチャン、ゴツンという音も交じる。視覚障害者の単独歩行は危険と隣り合わせだが、同時にさまざまな音を楽しむチャンスでもある。同じ道でも季節・時間によって白杖の音は微妙に異なる。白杖でリズミカルに道路をたたけば、軽快なジャズが流れる。仕事帰りで疲れている日は、白杖をズルズル引きずる。思わず、ズルズル音をバックに演歌を口ずさみたくなる。
先日、高校生・大学生対象のオンライン・ワークショップを担当した。普段、僕のワークショップでは「触」をテーマとし、各地の民具や楽器にさわってもらう。しかし、オンラインでは「触」が使えない。そこで、僕が注目、いや注耳したのは音。白杖ミュージシャンの面目躍如である。まず、僕は視覚を使わない自身の日常生活において、種々雑多な音が大切であることを話した。車の走行音で信号を判断する、人の足音で性格がわかるなど、音にまつわるエピソードは多い。
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