バッハの組曲など、弦楽器一本で演奏する時には、オーケストラのようにさまざまな性格や音色が表現されるように考えるものである。それはどこか落語にも似ており、うまくやれば熊さんやおかみさん…つまりソプラノやバスといった複数の人格も、長屋などの場面設定(舞曲の様式等)も、聴く者の脳裡(のうり)に形作られてゆくのである。
いっぽうオーケストラは「一糸乱れぬ」アンサンブルがほめられる。それは大切ではあるが、必ずしも没個性になって合奏という大義…に尽くすというものではない。しばしばオーケストラは社会の縮図と言われるとおり、そこには支える者と支えられる者、目立つ者と陰の者など相反する性格が共存し、それぞれが性格を明らかにすればするほど同時に音を出すのが難しいこともある。
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