「二足の草鞋(わらじ)」という言葉は本来、江戸時代の博徒と捕吏(ほり)という「相反する二つの仕事」を兼ねることを言うそうだ。日本では「一芸に秀でる」と特化・専門化が美徳として扱われることが多く、多方面の仕事をする人はともすれば「器用貧乏」と軽んぜられ、「二足の草鞋」は「二兎(にと)を追う者は~」の同類として使われる。
指揮者とチェロ奏者両方を続けている私はしばしば「どちらが主か」と問われるが、何とも答えられないのである。学生時代、指揮の先生には「食えなくても室内楽がやりたい」と言って苦笑され、子供の時から学んでいたチェロの先生には一度、こともあろうに「指揮者になりたい」と答えた。破門にせず「もう少し弾けるようにならないと誰も君の言うことを聞かないよ」と救いの手を差し伸べてくださった先生には感謝しきれない。
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