オランダから南ドイツの方へ、ライン川沿いを行く長距離の電車内で楽譜を見ていたら、向かいにいた男性が「見ると音が解(わか)るのか?」と聞く。そうだと頷(うなず)くと「だったら聴く機械は要らないな」という。確かに音楽家は、楽譜を見て音が頭に鳴らなければ仕事にならないが、ある程度は慣れや知識の問題で、読書して情景が脳裡(のうり)に浮かぶのと多分そう変わらない。
その男性がさらに続けて「音楽のことが私たちより解っているのかもしれない」。言われてみれば確かに「あなた方の国の音楽」をやっているのだが、どんな分野にも玄人と素人の違いはある。まあ長旅の車内のことで、居合わせた東洋人の男のすることに興味が湧いたのだろう。
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