8月の兵庫県西、北部豪雨で大きな被害を受けた佐用町。大規模半壊した清水樹(たつる)さん(75)と妻康子さん(75)の自宅は11月末、補修が終わった。夫婦は仮住まいの雇用促進住宅から引っ越し、真新しいリビングに笑い声が戻った=写真。
1階はすべて水損。補修には1000万円もの費用が必要だった。しかし、決断を迷うことはなかった。後押しとなったのが、県が阪神・淡路大震災の経験を踏まえて独自に創設し、2005年から運用する「住宅再建共済」だった。
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大震災では約24万9千棟が全半壊し、火災による全焼も約7千棟に上った。再建を断念したり、家は建てたものの二重ローンに苦しんだりした被災者は少なくない。
そこで、県が編み出した「共助」の仕組みが、共済だった。
掛け金は年間5千円。すべての自然災害を対象とし、全半壊で自宅を再建・購入する場合は600万円、補修する場合は200万~50万円を支給する。貯蓄などの「自助」と、被災者生活再建支援法に基づく支援金などの「公助」。そのすき間を、「共助」である加入者の掛け金で支え合う-という発想だった。
実際、清水さんは貯蓄やJA共済、被災者生活再建支援法の支援金に、県共済から給付された100万円を加え、補修費用を全額賄うことができた。
自治会長だったこともあり、地域に県共済を広めようと率先して加入したという清水さん。「まさか自分が支給されるとは思っていなかったが、夫婦で年金暮らし。本当に助かった」
引っ越し後、早速近所の顔なじみが訪ねてきた。「お帰り。待ってたんよ」。住み慣れた所に戻ることができた喜びを実感した。
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県共済初の給付例となった兵庫県西、北部豪雨では、191戸に対し2億1550万円が支給され、今後も26戸への給付を予定する。制度の意義はあらためて確認されたが、加入率は11月末現在、全県で7・5%にすぎない。特にマンションは4・9%と、戸建ての11・2%に比べて低い。
背景には、「もう地震はこない」との油断とともに、制度が浸透していないことがある。来年1月に共用部分について加入する「中山手セントポリア」(神戸市中央区)理事長の冨田薫さん(60)も、詳しい内容は知らなかった。
同マンションは大震災で全壊。共用部分の補修費に1億2千万円を要し、大半を約70人の入居者で分担した。「当時はまだ入居者が働き盛りだったが、今は60代以上が多い。次に被災すれば負担には耐えられない」と不安を覚え、9月に共済側から説明を受けた。
低額の掛け金で一定の費用を賄えるのも、共助の理念も魅力的だった。すぐに住民の合意を集め、年明けの加入を決めた。冨田さんは「震災当時のしんどさを知っていたら、制度の良さは分かるはず」と訴える。
大震災以降、神戸、阪神間には新たなマンションが立ち、地震を体験していない住民も増えた。教訓を思い起こし新住民に伝えられるだろうか。今後の共済の普及度合いは、私たちの姿勢も問うことになる。(田中陽一)
=おわり=
2009/12/25