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(5)継承 培った「視点」今こそ
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 「今なら、何とかしてやれるのに…。すまないことをしたとずっと思っています」

 10月中旬、兵庫県教育委員会が、県庁で開いた心のケア担当教員(旧・教育復興担当教員)の座談会。経験者5人が集まった。神田英幸さん(61)はある後悔を打ち明けた。

 震災直後のこと。近所のお年寄りが亡くなった小学校6年の男児は、「怖い」と何度も訴えた。当時、神田さんに心のケアの知識はなく、男児の気が弱いと感じた。「何を言ってるんや」と突っぱねてしまった。

 後悔が“原点”となり、神田さんは西宮市内の小学校2校で計8年間、担当教員を務めた。傷ついた子どもを受け止め、見守ることに徹(てっ)した。震災後の苦しさを涙ながらに語る保護者の声に、じっと耳を傾けた。

 「教員は、子どもの全体を見ることができる。周りの子どもとのかかわり、学習面、保護者のこと…。それが、教員だからできるケアではないか」

 他の教員も「地域住民やスクールカウンセラーとつながり、たくさんの目で子どもを見ることが大事」と経験を語った。担任ではなく、フリーの教員として存在する価値についても話し合われた。県教委の担当者が、一言一句をノートに収めた。

    ◆

 座談会には、現役の担当教員も参加した。神戸市立井吹台中学校の柚木晃さんは、担当教員を務めて3年になる。

 乳児期に被災した中学3年生と向き合う。心のケアの対象生徒は、忘れ物が多かったり、対人関係のもめごとを起こしたりする。どこまでが震災によるものかは分からない。ただ、2年前の保護者アンケートには「震災直後、水がないので風呂に入れてやれなかった」「子どもに十分なことをしてやれなかった」などとつづられていた。

 昨年度、同中には「別室」と呼ぶ教室が設けられた。ケア対象生徒を含めて十数人が通ってくる。教室に登校するのが難しくても、机とソファがあるこの部屋で、柚木さんと話したり、自習をしたりして過ごせる。

 柚木さんは自身の仕事を「明確な答えやゴールがあるものではない」と話す。しかし、一緒に過ごした生徒が無事卒業できたとき、「担当教員がいた意味はあるのかもしれない」と思う。「別室」には、発達障害や不登校などの生徒もいる。震災に限らず課題は山積している。

 担当教員の配置はまもなく終わる。学校現場には若い教員が増え、震災の経験者は少なくなっていく。県教委は、座談会などで聞き取った言葉を冊子にまとめる。県教委に助言を続けてきた臨床心理士の馬殿禮子・関西国際大教授は言う。

 「担当教員が15年で蓄積した心のケアのノウハウは、現代の子どもの問題に一般化できる。今まさに、担当教員の『視点』が求められている」と。

 (中島摩子、黒川裕生)

=おわり=

2009/12/3
 

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